2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on the factors impacted to expansion and growth of organic farming and food market in Italy
Project/Area Number |
21K05797
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
李 哉ヒヨン 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 教授 (60292786)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | イタリア / 有機食品 / 市場構造 / サプライチェーン / LFSCs / SFSCs |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度9月に,イタリアで最も有機農業面積の大きいシチリア島への渡航調査を実施し,当該地域に展開する多様なオーガニックフードチェーンの実態にアプローチした.調査にあたっては,LFSCs(long food supply chains)とSFSCs(short food supply chains)を区分した上で,各々のチェーンにおいて何らかのチェーン機能を果たしている,複数のチェーンアクターを対象としたフォーカスグループのインタビューが行われた.その結果,LFSCsでは大手スーパーチェーンの有する大規模な有機農産物の需要に刺激された「量的拡大」が,SFSCsでは,ローカルの消費者の倫理的な消費に支えられた「質的拡大」が促されていることが確認できた.なお,ここでいう「量的」は慣行農業から有機への転換面積を指標とするものであり,「質的」は,有機農法における自然環境配慮,持続可能性,ローカリティの保障の有無を指標としている. 近年,先進諸国が掲げている有機農業の拡大という政策目標には,地球温暖化の阻止や生物多様性の保全に貢献できる,すなわち後者の有機農業の質的拡大に関心が集中している一面があることを否めない.こうしたことから,これまで有機農業拡大への政策的取り組みにおいて,LFSCsに比べて相対的に等閑視してきたSFSCsの実態およびその有機農業の「質的拡大」への関与を明らかにする,本研究は,日本の関連政策・施策にも大きな示唆を与えられるものと考える. 2022年度の現地調査によって得られた量的・質的データの分析・解析結果は,これまでの各種関連統計分析の結果および先行研究のレビューと組み合わせられ,目下,学術雑誌への投稿に向けた論文の執筆が進行している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は,COVID-19によるパンダミックの最中にスタート(2021)した.そのために,長らくコロナ感染リスクによる海外への渡航規制および自粛要請を強いられた.従って,イタリアへの渡航調査が欠かせない,本研究は,計画通りの調査の実行ができず,初年度(2021年度)は文献サーベイや先行研究のレビューに集中していた.本研究の進捗状況が大幅に遅れている理由である. 幸いに,2022年度には,コロナ感染リスクへの対策が幾分緩和されたことを受け,9月に渡航調査が可能となり,イタリア・シチリアにおける局地的な現地調査を実現することができた.現在,その調査の成果を学術論文として取りまとめている最中である. とはいえ,昨年度の現地調査は研究プロセスの第一歩に過ぎず,当初の研究計画に照らせば,イタリアのオーガニックフードチェーンの全容解明に必要なチェーンアクターへのさらなるアプローチが求められている.依然として研究の進捗状況が遅れており,今後,分析・解析に必要なより多くのモノグラフの蓄積を図り,複数回の現地渡航調査を企画・実行する必要がある.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後においては,調査研究のフィルードを,有機農産物および食品のフードチェーンが,多くの課題を抱えるLFSCsからSFSCsへと移行しつつある,エミリア・ロマニャー州およびロンバルディア州へと移し,当初の計画通りにケーススタディを続ける予定である.なお,これらの地域では,相対的に高い購買力をもつ多くの消費人口が密集していることから,多くの大手スーパーチェーンが立地し,早くからLFSCsが構築されてきたが,有機農産物・食品のフードチェーンも,そのLFSCsに広く包摂されている.とはいえ,近年は,LFSCsが取り扱う有機農産物・食品については,持続可能性,環境配慮,ローカリティをかけているのではないかという疑いを持つ消費者が増えつつある中,いわゆる倫理的な消費者および生産者を中心に,LFSCsに対置されるSFSCsの構築が盛んである. そこで,2023年度中には,これら二つの州を訪ね,コープイタリア,エスルンガーなどの大手スーパーチェーンと大規模青果農協(Apofruits Italia,Fruttagel)が構築する有機農産物のLFSCsと,都市住民が組織する複数のGAS(Capi Apelti,Camila)のほか,直売所やGASに有機農産物を出品・提供している農家が関与するSFSCsを対比した上で,両者に異なるチェーン機能およびチェーンアクターが有機農業・食品マーケットの拡大・成長にどのような貢献を果たしているのかを,各々のチェーンアクターへのイタンビューを通じて分析する.
|
Causes of Carryover |
本研究は,有機食品を原料農産物の生産現場から消費者に向けて進めていくサプライチェーンをLFSCとSFSCに区分した上で,イタリアにおいて各々のチェーンに機能する多数のチェーン・アクターへのdepth-interviewを研究手法とするケーススタディである.従って,イタリアへの渡航および該当事例への訪問調査が欠かせない. しかしながら,コロナ感染リスクによる海外への渡航規制および自粛要請を強いられる中, 2021年度はイタリアの現地調査の実行が不可能であった.幸いに,2022年度には,イタリアへの渡航調査が実行できたものの,2021年度に執行できずに繰り越した研究費予算までを執行できるほどの渡航機会が得られなかった.本科研費において前年度の予算の次年度使用が生じた理由である. 2023年度中には,イタリアのエミリア・ロマニャー州およびロンバルディア州に点在する複数の有機農産物のサプライチェーンアクターへのインタビューを目指して,複数回に渡るイタリアの現地調査を実施する予定である.これらの渡航調査において,残された研究費予算が執行できるように,渡航日程の確保および調査実施に向けて最善を尽くしたい.
|