2021 Fiscal Year Research-status Report
農協の経済分析手法を援用した森林組合の事業シェアと効率性の推移に関する研究
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21K05808
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
萬木 孝雄 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (30220536)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 森林組合 / 計量経済分析 / パネルデータ / 協同組合理論 / 理論モデルサーベイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の内容は、統計データを用いて森林組合の経済効率性について分析を行う実証研究と、海外において近年まで進展してきた協同組合理論モデルを俯瞰し、その解説を行うサーベイ研究の2つに分けられる。 前者の実証研究では、総合農協の計量分析において実績のある、複数の投入および産出の要素を利用するDEA(Data Envelopment Analysis)モデルに基づいて行う。投入要素の候補として、「組合員が所有する森林面積」、「専従職員の労働日数」、「事業費用」の3つを、また産出要素の候補として「販売事業売上高」、「新植面積」、「保育面積」の3つを予定している。データの出所は『森林組合統計』に掲載されている都道府県別の統計数値であり、計測期間を2000年より近年までの20年程度を取って、算出される効率性の結果について、その解釈や意義について考察を行う。 次に後者のサーベイ研究については、共同研究者による支援も受けながら20本くらいの外国での研究成果を取り上げる予定である。それらの中でも特に、Hart, Oliver and John Moore (1996) The Governance of Exchanges: Members' Cooperatives versus Outside Ownership、およびBubb, Ryan and Alex Kaufman (2013) Consumer Biases and Mutual Ownership、という2つの論稿による成果が興味深いと考えている。サーベイ研究においては、それらの理論モデルが意味する内容を解説し、森林組合も含めた日本の協同組合研究に新たな視点をもたらす可能性についても言及する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗状況についても、概要と同様に実証研究とサーベイ研究の2つに分けて説明する。前者の実証研究では、森林組合がおかれている状況について既存研究を整理し、本研究の意義を確認する作業は、ほぼ終了している。また統計データの収集については、『森林組合統計』に掲載されている投入と産出の3要素ずつについて、作業はほぼ終了している。ただしそれらの入力作業は終了していないため、それを速やかに行って分析結果を出していく必要がある。 また森林組合の産出においては、「新植面積」と「保育面積」という2つの面積を用いると概要で説明を行ったが、各都道府県の民有林面積において森林組合による作業面積の割合が大きく異なる場合には、このモデルでの分析結果に関する考察の作業が少し滞っている。たとえば、ある県の森林組合(複数の場合はその合計値)で、産出の面積は小さいものの投入要素もより少ない場合は、効率性の指標が高くなってしまう。コンパクトに作業面積を留めている県と、経営面では困難があるとしても広い面積を請け負っている県との間での結果解釈について、データの丁寧な記述統計を行う程度でしか改善方法はないかも知れないが、計量分析による手法や結果解釈での課題にも留意しながら、分析を進める予定である。 後者のサーベイ研究における進捗は、謝金を支出して作業をお願いしている共同研究者の方による貢献もあって、順調であると言える。この研究助成が得られ2021年度以前より作業を行ってもらっていた側面もあるが、すでに洋雑誌に掲載されている様々な理論研究が読了されており、それらを発表年順に整理して内容を解説し、特に重要な文献については図を用いて論旨を説明する予定である。外国で進展している協同組合を中心とする非営利組織に関する経済モデルの紹介については、日本ではまだ十分に行われていないため、このサーベイ研究による意義は大きいと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の進捗状況において示した、既存の森林組合に関する実証研究の中では、特に志賀和人氏の『民有林の生産構造と森林組合』(1995)に代表される一連の著作が、参考になった。そこでの終章における記述を抜粋すると、「森林組合は戦後改革の一環として、協同組合原則に則った組織に再編され、運営面での協同組合的性格を定着させている。しかし組合員の大多数を占める中小規模林家の日常的な林業への関心や森林組合への結集力は弱く、(中略)広域合併を契機に規模の拡大に対応した(森林組合における)事業展開と内部組織の充実を、いかに行うかが重要な課題となる」(pp.411-412、一部省略)という説明には、共感する部分が大きかった。本研究での実証分析においても、そのような既存研究による成果や指摘を踏まえた上で、より客観的な知見の提供を目指したいと考えている。実証分析の進捗は少し遅れ気味ではあるが、2022年度内においてはどこかの学会において、成果の発表を行いたいと考えている。 また後者の理論モデルに関する研究サーベイは、すでに草稿の80%程度が書き上げられているため、こちらについては今年度中にどこかの学術雑誌に投稿を済ませる予定である。
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Causes of Carryover |
研究助成の初年度である2021年度は、コロナによる影響もあって森林組合に関係する機関や研究者への聞き取りを、ほとんど行うことが出来なかった。またこの初年度は、まだ研究成果を十分にまとめ切れていないために、学会発表などのための旅費も使用することがなかった。 2022年度に繰り越された分は、それらの使用目的に基づいて積極的に、研究を進めていく所存である。
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