2023 Fiscal Year Research-status Report
雇用劣化と新型コロナ危機下における地域労働市場と農業構造の動態変動に関する研究
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21K05809
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
山崎 亮一 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 名誉教授 (10305906)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新井 祥穂 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40345062)
氷見 理 新潟大学, 自然科学系, 助教 (50845568)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 労働市場 / 農業構造 / 雇用劣化 / 土地利用型農業法人 / 地域農業システム / 本源的蓄積 / 共同体 / 養蜂業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、長野県南部の天竜川沿いに位置する伊那谷地方の農業・農村を対象としながら、長年にわたって取り組まれてきた集団的研究の成果を、山崎亮一・新井祥穂・氷見理編著『伊那谷研究の半世紀: 労働市場から紐解く農業構造』にまとめて、2024年2月に筑波書房より公刊した。同書は、やはり筑波書房より2015年に出版した、星勉・山崎亮一編著『伊那谷の地域農業システム: 宮田方式と飯島方式』の続編である。 上伊那郡の宮田村の1集落では、数十世帯を対象とした集落調査が、1970年代から、間隔を置いて5回にわたり実施されてきた。調査は、その時々で異なる実施主体によって、1975年、83年、93年、2009年に行われた。そして最も最近の調査は、東京農工大学農業経済学研究室が、2019年に実施した。『伊那谷研究の半世紀』は、この最後の調査の分析結果の紹介を軸心に据えながら、過去数十年間の宮田村研究を総括している。また、近隣の、中川村と飯島町を対象とした2010年代後半以降の調査結果の紹介をも取り込みながら、宮田村研究の結果の伊那谷地方における一般性と、さらには特殊性をも解き明かしている。 2010年代後半以降の状況の分析を行うことによって、我々は、自分達の視点から「雇用劣化」と呼んでいる社会経済状況の新たな特徴と、さらにそれに応じた農業構造と農業生産主体の動向とを捉えることができるようになった。伊那谷地方の地域労働市場は、2010年頃までは「近畿型」と呼ばれてきたものであった。それは、青壮年男子の農外就業先に、「切り売り労賃」層と呼ばれる、単純労働賃金が見られないものであった。それが、2010年代に進行した「近畿型の崩れ」の下で、単純労働賃金層が再形成されるようになってきた。こうした下で、全層落層的な農業構造変動が進行し、そうした動きと呼応する形で農業生産法人の活動が活発化してきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」のところで述べたように、長野県伊那谷地方の農業・農村を対象とした調査研究の成果は、本研究課題の研究代表者(山崎)、及び研究分担者(新井・氷見)を編著者としながら作成した出版物『伊那谷研究の半世紀:労働市場から紐解く農業構造』(筑波書房、2024年2月)の形で、世に問うことができた。 また、本研究課題のもう一つの調査対象地である青森県・五所川原市の農業・農村を巡る研究成果としては、2024年1月に、曲木若葉「『北東北』における今日的低賃金層の形成と農業構造:青森県五所川原市を事例に」『歴史と経済』第262号、21-40頁、が出版された。曲木氏は、本研究課題の研究分担者ではないが、本研究課題の前身の研究課題であり、やはり山崎が研究代表者を務めていた、基盤(C)18K05860「激変する労働市場環境下での農業構造展開の地域性に関する研究」(2018-2020年)で研究分担者を務めていた。五所川原市における調査はこの研究課題の一環として実施されていたものであり、その後の補足調査を積み重ねる中で、上記の論文を完成させることができた。本研究課題の代表者と分担者も、補足調査に同行したり取りまとめの際の議論を行うなどしながら、論文の完成に向けて協力してきた経緯がある。なお、この論文の文末には、論文作成にあたって、上記、18K05860の研究成果であることが明記されている。 ところで、本研究課題の当初の研究対象地は、長野県伊那谷地方と青森県五所川原地方であった。これら2つの対象地について、一方は書籍の形で、他方は『歴史と経済』に掲載された論文の形で、2023年度中に研究成果を世に出すことができたのであるから、「現在までの進捗状況」を、「おおむね順調に進展している」としてもよいのではないかと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、本研究課題の最終年度である。最終年度に当たって取り組むことは、先ず、2022年度に出版した本研究課題の成果であり、そしてまた、おかげ様で2023年日本農業学会学術賞を受賞することもできた、『山崎亮一著作集第5巻 本源的蓄積と共同体』(筑波書房)の英語版を出版することである。同書は、全体が、第1部「本源的蓄積と共同体」、第2部「補論と書評」の2部構成となってはいるが、今回、英語版としての出版を予定している部分は、これらのうち、本の中で本論部分を成している第1部である。原稿は8月中に完成させて出版社に送る予定である。担当していただく出版社は筑波書房を予定している。 本研究課題最終年度に取り組むことの第2点目として行うことは、北海道の日高地方をフィールドにしながらの、養蜂業に関する経営学的研究と、さらには養蜂業と地域経済・環境との関わりについての研究である。研究成果は、報告書論文や動画公開を通じて世に発信して行く予定である。
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Causes of Carryover |
研究代表者は、2023年に定年退職したため、以下の事業を2024年度に持ち越した。先ず、2022年度に出版した本研究課題の成果であり、そしてまた、2023年日本農業学会学術賞を受賞することができた出版物である、『山崎亮一著作集第5巻 本源的蓄積と共同体』(筑波書房、2022年)の英語版を出版する。同書は、全体が、第1部「本源的蓄積と共同体」、第2部「補論と書評」の2部構成となっているが、今回、英語版としての出版を予定している部分は、これらのうち、本の中で本論部分を成している第1部である。原稿を8月中に完成させて出版社に送る予定である。出版社は筑波書房を予定している。 本研究課題最終年度に取り組むことの第2点目として行うことは、北海道の日高地方をフィールドにしながらの、養蜂業に関する経営学的研究と、さらには養蜂業と地域経済・環境との関わりについての研究である。その研究成果は、報告書論文や動画公開の形で世に問うて行く予定である。
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