2021 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ農業・農村開発の社会環境史的研究―ナチス食糧自給政策から戦後の農業革命へ―
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21K05811
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
足立 芳宏 京都大学, 農学研究科, 教授 (40283650)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 農業史 / 農村開発 / 戦後ドイツ史 |
Outline of Annual Research Achievements |
計画の時代とも称される1930年代から1960年代の時期を対象に、ドイツの農業・農村開発事業について、「成功」とされるに至った歴史的文脈を、社会史と環境史の複眼的視点からから実証的に解明することが本研究の目的である。 2021年度に予定していた現地資料調査が新型コロナ感染症により結局実現しなかったことから、手持ちの文献・資料の再検討を主たる課題とした。その成果の一部は、大阪経済大学日本経済史研究所主催の秋期学術講演において「ドイツ農村の20世紀史―移動と入植―」として公表した。講演の内容は、1939年から1960年頃にかけて行われた一連の三つの農業開発政策、具体的には①第二次大戦時のナチスの農民入植事業、②戦後の東ドイツの土地改革・農業集団化、そして③同時代の西ドイツの泥炭地開発・入植事業の三つの歴史的出来事を対象に、主として戦争で故郷を追われた人々が戦後ドイツ農村にどのように定住していくのか(または排除されたのか)、そのプロセスに焦点をあてることで、移動と入植からみたドイツ農村の歴史像の再構成を試みるものである。ドイツ農村の社会問題の特徴である農村下層民問題と、戦時・戦後の難民問題、越境を特徴とするこの二つの問題の交差の上に戦後の入植事業・農村開発事業が位置づけられるという観点を打ち出しえたことが収穫であった。 これとは別に、西洋史研究会2020年度大会共通論題報告「近世後期農村社会の治水事業・社会紛争・公共性」(新型コロナ対応にて誌上シンポジウム)において、「農業史と環境史のあいだ」と題する長文コメントを発表した(2021年11月)。このコメントの執筆を通して、「水をめぐる開発とリスク」という観点から新たな日独の比較農村史の観点を論じることができた。さらに2020年10月には地域農林経済学会の大会シンポジウムにおいては座長解題として、農林資源開発史に関する報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、西ドイツの代表的な農業・農村開発事業である「北部開発事業Programm Nord」について、ナチ時代の開発事業との連続性、1950年代の地域開発計画との関わりに着目し、その経緯と特質を明らかにすることを主目的とするために資料文献収集を行うことが第一の目標であった。しかし新型コロナ感染症による現地調査ができなかったことから、この研究課題についての実証研究はほとんど進めることができなかった。このため上記のように先行研究の検討にとどまらざるを得なかった。現地調査は次年度に延期している。 とかくするうちに2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻という歴史的出来事が発生した。本研究計画では、第3の研究課題として、戦時ナチスの東部占領地農業構造改革の実態を、ウクライナにおける「コルホーズ再編=農耕共同体の建設」の構想と実施過程に焦点を当てて、ドイツ側の史料・文献に基づいて明らかにすることを目的としていたが、現下のウクライナ危機より、この研究課題の重要性が高まったと考える。このため試論的となるが、こちらの研究成果をまとめることを優先することとし、手持ちの資料の整理と読み込みを始めたところである。
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Strategy for Future Research Activity |
延期していた現地ドイツ調査をできれば2022年9月と2023年3月に行いたい。調査目的は、主としてシュレスビッヒの州立文書館において「北部開発事業Programm Nord」の資料調査である。さらに可能であれば、北海干拓事業のうち、戦前の代表的な干拓地であるディークサンダー干拓地(Dieksanderkoog)およびチュームラウアー干拓地(Tuemlauerkoog)、戦後の北部事業の代表的な干拓地であるリュプケ干拓地(Luebkekoog)を訪問したい。 また、戦時ナチスのソ連占領地区における食糧・農業政策については、まずは手持ちの資料をもとに、試論的な内容となるが、その概略を論じることしたい。そのうえで渡独の折には、ベルリンおよびフライブルクの連邦文書館にて現地史料調査を行いたい。 なお、当初は予定していなかったが、戦後のドイツ農業の技術革新を語る上では、飼料用トウモロコシの全国化による畜産業の飛躍的向上が重要である。この点は東西ドイツに共通している。この点についても可能な限り資料・文献収集に務めたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響を踏まえた上で、本年度は実施できるように調整を続けてきたが、更なる感染拡大によるドイツ他への渡航の困難等の影響を受け現地調査が困難となり、年度内に事業を完了することが困難となったため。
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Research Products
(5 results)