2021 Fiscal Year Research-status Report
On Relationship between the biodiversity and the operation and maintenance of small irrigation ponds
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21K05832
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
角道 弘文 香川大学, 創造工学部, 教授 (30253256)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ため池 / 生態系保全機能 / 絶滅危惧種 / 抽水植物 / コウホネ類 / 生育条件 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,本研究の目的の一つであるため池の生態系保全機能の定量的な知見を得ることに主眼を置き,以下の2点について成果を得た. 第一に,水生植物に着目し,絶滅危惧種の種数および生育確認地数の両面から,小規模ため池の生態系保全機能について評価を行った.「香川県レッドデータブック2021」の一次データを用いた分析結果から,香川県で絶滅危惧種に選定されている水生植物55種のうち46種(83.6%)がため池に生育していた.また,香川県で絶滅危惧種に選定されている水生植物の確認地845地点のうち,567地点(67.1%)がため池であった.このように,ため池の生態系保全機能の重要性が明らかとなった. 第二に,香川県では絶滅危惧種Ⅱ類に選定されているコウホネ類(抽水植物)を取り上げ,同種の生息環境条件について検討を行った.生育が確認されたため池5か所6地点,比較対照として生育が確認されなかったため池2か所2地点を対象とし,コウホネ類の生育状況,全窒素濃度,全リン濃度,底質硬度,底質の強熱減量等を計測・分析した.生育状況の消長から,ため池水位に追随して生育していることが明らかとなり,ため池維持管理との関係性が示唆された.水質分析より,全窒素0.30~0.86mg/L,全リン0.026~0.045 mg/Lといった中栄養から富栄養のため池が生育に適していることが分かった.底質の強熱減量は,生育が確認された地点1.3~27.4 %,確認されなかった地点0.5~1.9 %であり,生育が確認された地点の強熱減量が高かった(Mann-Whitney U-test,p<0.01).底質硬度は,生育が確認された地点0.0~34.0㎜,確認されなかった地点3.5~25.0㎜であり,有意な差は認められなかった(Mann-Whitney U-test,p=0.189).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は,本研究の第一の目的である小規模ため池における生態系保全機能に関する定量的知見を得ることに注力した.「研究実績の概要」で述べたとおり,香川県で絶滅危惧種に選定されている水生植物の種数,確認地点数を指標とし,小規模ため池の生態系保全機能の重要性を具体的に明らかにすることができたことは,初年度における進捗としては十分であるといえる.また,ため池生態系の環境基盤の一つとも言うべき抽水植物の一種であるコウホネ類の季節的消長の背景要因が推察され,また,生育に適した環境条件を具体的に示せたことは,次年度以降に取り組む第二の目的である小規模ため池の維持管理と生態系保全機能の関連にかかる分析評価に繋がるものである. なお,申請時の当初計画では,初年度において,10か所程度の小規模ため池を対象に,淡水魚類,トンボ類などの採捕調査および環境調査,ため池の維持管理実態の把握を行うこととしていた.他方,実際の現地調査では,対象生物相を抽水植物のコウホネ類に絞り,同種の生育分布,被度,生育分布の季節的消長について把握するとともに,生育にとって重要な環境要素であると考えられる水質項目(COD,全窒素,全リン等),ため池浅場の底質硬度,底質の強熱減量,維持管理(貯水管理)によるため池水位の期別変動を明らかにし,コウホネ類が生育しているため池・地点と生育していないため池・地点の比較検討により.コウホネ類の生育に適した環境条件について検討したところである.調査対象として抽水植物を取り上げた理由としては,抽水植物が淡水魚類,トンボ類等の産卵場,退避場等として機能すると考えられ,抽水植物そのものがため池生態系の重要な環境基盤に位置づけられるためである. 以上のとおり,事前に想定していた初年度における目的は十分達成はされたが,調査項目,調査量が当初の計画どおりではなかったことから,上記の区分を選択した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,本研究の第2から第4の目的,すなわち,小規模ため池の維持管理と生態系保全機能の関連、生態系保全機能の保持に必要なため池の維持管理水準、リソースの制約のもとで優先的に保全すべき小規模ため池を抽出するための計画手法について,段階的に検討を進めていく. ただし,当初計画では,香川県M町に位置する小規模ため池12か所程度を調査対象地としていたが,この際,対象ため池の選定方法を変更することとしたい.本研究の研究計画調書を提出した後に,「香川県レッドデータブック2021」編纂の根拠資料である一次データを香川県より取得することができた.この一次データによって,絶滅危惧種が生息しているため池の位置情報がある程度把握できる.ため池の生態系保全機能を評価する最適な指標の一つである絶滅危惧種の情報,そして,当該種が実際に生息しているため池の位置情報,これらの組合せにもとづいて調査対象ため池を選定することとする.また,比較対照として適当と考えられる近傍のため池をも調査対象として加え,両者を比較検討しながら所定の目的の達成を目指したい.
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Causes of Carryover |
当初計画に比べ、調査対象ため池数が少なかったこと、また、学会がリモート開催となり当該学会参加にかかる旅費が不要となったことなどにより、次年度使用額が発生したものである。次年度では、調査ため池を増やし、対象生物相を水生植物に加えて昆虫類等に拡張するため、環境調査に用いる器具類・消耗品の購入、水質分析にかかる経費、旅費などに、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する計画である。
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