2021 Fiscal Year Research-status Report
夏季高温時における水田の水管理がイネ葉温と穂温の形成に果たすメカニズムと効果
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21K05851
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
大上 博基 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (80213627)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イネの葉温と穂温 / 夏季高温 / 水管理・灌漑 / 気孔コンダクタンス / 光合成 / 品種間差 / 電子伝達速度 |
Outline of Annual Research Achievements |
愛媛大学農学部内で,イネ品種「ひめの凜(HR)」,比較対象の「コシヒカリ(KH)」と「にこまる(NM)」を各3個のコンテナで10個体ずつ栽培した.各品種の草丈,LAIを毎週手測し,各品種各5個体の第4葉から止葉までの気孔コンダクタンス(gs)と電子伝達速度(ETR)を午前と午後に測定(LI-600PF, LI-COR)し,各品種の蒸散・光合成・クロロフィル蛍光誘導期現象を測定した.各品種の群落の赤外線放射温度を測定した.出穂開花期以降,各品種3コンテナに対し異なる水管理(湛水深)を与え,上記の測定値を比較した.土壌水分は静電容量式の土壌水分センサーで測定した. HRのgsは,中干期間にも他2品種よりも高い状態を維持した.出穂開花期から登熟期に,HRは止葉のgsを最高として第4葉まで総じて他2品種よりも有意に高く,NMのgsはKHよりも高かった(ns).KHは登熟期に止葉のgsが有意に他2品種よりも高いことが特徴的だったが,第3葉以下は老化が早くgsが低かった.以上のことから,ひめの凜はgsが高いため蒸散を促進し葉温を低下させる機能を備えていると評価できた. HRのETRは,出穂開花期までは一部の下位葉で有意に高かったが,止葉はNM方が高かった.登熟期には,有意ではないがHRのETRは他2品種よりも高かった.以上のことから,HRは比較的高いETRをもつ光化学反応特性を有しているといえ,高いgsとの相乗効果で光合成速度が比較的高いと評価できた. 湛水深が10cmと0~2cmの条件で群落温度を比較した結果,湛水深10cmにおける群落温度の方が低い傾向が認められた.しかしgsやETRにはほとんど差が確認できなかった.令和4年度の研究では,出穂開花期以前から異なる水管理条件を与え,それがgsなどに与える影響を引き続き検討するとともに,圃場実験で水管理が群落温度に与える影響を精査する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書の「1研究目的、研究方法など (3)研究方法」に既述したように,令和3年度は,コンテナ植えの3品種イネについて,品種別・水管理条件別に各パラメータを比較する「個葉~個体レベル」の実験を計画通りに遂行した.実験対象として,コシヒカリ(高温感受性),にこまる(高温耐性があるとされる),ひめの凛(高温耐性があるとされるが科学的には未解明)を計画通り用いた. 各品種3個の水管理として,出穂開花期以降に,それぞれ5cm,10cm湛水,慣例的水管理に設定した.当初の計画では,日最高気温が33.0℃以上と予想される日の朝にこれらの水管理を適用することにしていたが,実際は高温日が多く,出穂開花期以降は継続して毎朝それぞれの湛水条件に設定した.各条件・品種に対する測定項目として,ほぼ計画通り,個葉の光合成速度,気孔コンダクタンス,クロロフィル蛍光パラメータ,SPAD値を葉位別に測定し,土壌水分,イネ群落温度植物体面積密度の鉛直分布と乾物重・収量を測定した.なお,本研究課題の重要な基礎テーマの一つは,品種別・水管理条件別に,各葉位の気孔コンダクタンスの違いを明らかにすることであることから,研究設備として導入したポロメーター・クロロフィル蛍光測定メーター(LI-600PF)が,より多くの葉を対象とする測定に期待以上の効果を発揮した. 以上の実験結果を用いて,品種ごとに個葉光合成・気孔コンダクタンスモデルを構築するとともに,水管理条件が上記の生理生態学的項目および葉温・穂温に及ぼす影響と品種間差,光化学反応における障害が発生する条件と水管理による障害回避の可能性が明らかにできつつある.特に品種間差は予測以上に大きく,愛媛県のオリジナル品種であるひめの凛は,他2品種と比較して気孔コンダクタンスが有意に大きいなど,極めて特徴的な生理生態学的特性を持つことが明らかにできた.
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は,研究計画調書の「1研究目的、研究方法など (3)研究方法」に既述したように,コンテナ植えのイネに加えて実験水田における微気象観測を行い「個葉~群落~圃場レベル」の実験へとスケールアップする.計画当初は,実験水田における圃場レベルの実験を中心に設定していたが,令和3年度に行ったコンテナ植えの3品種イネについて,実験方法におけるいくつかの課題が明らかにできたうえに,異なる水管理条件でのより集中的なデータ収集が必要であるため,この実験も継続して実施する. 実験水田(愛媛大学付属高校教育圃場)ではコシヒカリを栽培し,生育期間を通して慣例的な水管理を行う.移植直後から群落上部における基礎的な微気象環境の測定を開始するとともに,止葉伸長期以降は,コンテナ植えのイネと同様の個葉・個体を対象とする生理生態学的項目と微気象学的項目に加え,群落・圃場レベル(群落上部と内部)の微気象(放射収支,気温・湿度・風速の鉛直分布,水温・地温,土壌水分)と植物体面積密度の鉛直分布,乾物重・収量を測定する.このように,研究計画調書に既述した計画通りの実施を予定している. 以上の実験結果を用いて,コシヒカリの個葉光合成・気孔コンダクタンスモデルを構築し,令和3年度の研究成果と令和4年度の実験結果によるコシヒカリのモデルを比較検証して総合し,群落多層微気象モデルを開発する. 令和5年度は,研究計画調書に既述した計画に沿い,コンテナ植えのイネと実験水田における微気象観測を並行して継続し,令和3,4年度の各パラメータとモデルの適用性を検証を行うとともに,群落多層微気象モデルの精度と完成度を向上させ,高温条件下での水管理条件が葉温・穂温と個葉の光化学反応に与える影響を品種ごとに明らかにする.
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Research Products
(3 results)