2021 Fiscal Year Research-status Report
乳酸菌分離基盤技術の構築と自然発酵ワイン醸造に関わる微生物叢の解明
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21K05873
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
乙黒 美彩 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (20635099)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 運動性乳酸菌 / マルチウェルプレート / 自然発酵 / 酵母の多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動性乳酸菌が化学走性を示す化合物を選抜した。Liquorilactobacillus ghanensis JCM 15611T がメチオノールとイソブチルアルコールに、L. vini JCM 14280T がプロピオン酸エチルに正の走化性を示した。これらの化合物を誘引剤とし山梨県内の湖・池の水からマルチウェルプレートを利用して、乳酸菌の分離を行ったが分離には至らなかった。しかし、PCR法を用いてサンプル中の運動性乳酸菌の有無を確認する方法を開発し、実施したところいくつかのサンプルに運動性乳酸菌の存在が認められたため、今後分離方法にさらなる改良を加え目的の乳酸菌の取得を試みる。 北海道、山梨県、長野県および山口県内の醸造用ブドウ畑からブドウ果実を採取・破砕し、果汁を作製した。得られた果汁を酵母の増殖に適した温度で培養させ、培養0日~14日後の果汁から希釈平板法を用いて酵母の分離を行った。分離株の種同定はMALDI-TOF MSを用い、取得したMSスペクトルデータをデータベースに登録されている既知種のスペクトルと照合することで、菌種の同定を行った。サンプリングしたブドウ品種および分離株数を以下の表に示した。MALDI-TOF MSを用いた種同定の結果、分離株はHanseniaspora属やCandida属が大半を占めた。これら酵母はブドウ畑や自然発酵中のワインからの分離が多数報告されている。また、ブドウ畑ごとに菌種の分布が異なることが明らかとなり、山口県ではC. guillemondii、長野県および山梨県ではH. uvarum、H. vineae、C. zemplininaが高頻度で出現した。また、北海道においてはMetschnikowia pulcherrima、C. colliculosaが高頻度で出現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
運動性乳酸菌の分離方法の確立については、新たな誘引剤を見出しすことができた。しかし未だいくつかの課題があり目的とする菌群の分離には至っていない。一方、サンプル中から微生物ゲノムを抽出し運動性乳酸菌に特異的なfliG遺伝子を用いた検出方法を開発し、サンプル中の運動性乳酸菌の存在を推定することができた。ワインの果皮表面や自然発酵もろみからの酵母の分離および酵母叢の解明に関しては山梨県内のほか、北海道、長野、山口といった国内3社4地点のワイナリーの協力を仰ぎ、当初の予定よりも早く順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
自然サンプルなどの環境中では運動性乳酸菌の存在比は極めて少ないと考えられるため、PCRを用いた検出方法によって、分離源の選抜を実施する。また、分離源としてワインのもろみだけでなく、土壌や花などのサンプルから乳酸菌の分離を検討し、分離方法の有効性を評価する。 微生物がワインのテロワール・産地の個性に関与しているのかという問いを明らかにするために、R4年度も継続して自然発酵ワインもろみから酵母の分離・同定を実施し、R3年度の実験の再現性を検証する。また、我が国のワイン醸造用ブドウの固有種である甲州およびマスカット・ベーリーAから分離されたSaccharomyces cerevisiaeについてはinter-delta解析によって種内多様性を調査し、日本ワインの自然発酵に関わる微生物や野生酵母のワイン複雑性への寄与を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
令和3年度は新型コロナウイルスの影響により当初の予定より実験の規模を縮小して実施したこと、また情報収集のために参加を予定していた学会の年次大会が新型コロナウイルスの影響によりオンラインで開催になったこと等に伴って少額の未使用額が発生した。R4年度は近隣の県を含めてサンプリングや分離に未使用額を利用し、次年度使用額と合わせて計画通りに執行する。
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