2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K05876
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
金尾 忠芳 岡山大学, 環境生命科学学域, 准教授 (40379813)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 無機硫黄化合物 / 硫黄代謝 / 酵素化学 / 結晶構造解析 / 酵素反応機構 / 遺伝子組換え発現 / refolding |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄硫黄酸化細菌の一種 Acidithiobacillus ferrooxidans を研究の対象とし、硫黄化合物を代謝する酵素であるテトラチオン酸ハイドロラーゼ(4THase)について詳細な研究を行った。この4THaseは、無機硫黄化合物の加水分解反応を触媒し一部の好酸性微生物にのみ確認されている極めてユニークな酵素である。当該研究では既に、本菌の4THase遺伝子(Af-tth)の同定、組換え型酵素を結晶化し立体構造を決定した。さらに本酵素のユニークな反応メカニズムを解明するために、基質を浸漬した結晶構造解析を行うことにより、活性中心と反応に関わるアミノ酸残基の解析を行った。そしてD325がテトラチオン酸を加水分解するという、新規な反応メカニズムを解明した。さらにこの結晶構造解析から、D325の近傍に3つのメチオニン残基(M172, M238, M279)から成るメチオニンクラスターを発見し、これが硫黄原子を捕捉している様子を観察した。本研究課題においては、このメチオニンクラスターが本酵素活性にどの様に関わるのかを解明することに取り組み、最終的に反応メカニズムの完全解明を目指して研究を推進していく。一方で、Af-tth遺伝子がテトラチオン酸を生育基質とした場合に強く発現することから、この発現を担うプロモーターについても解析を行った。その結果、Af-tthの転写開始点とプロモーター領域を同定し、これを利用した本菌の組換え遺伝子発現ベクターを構築した。接合伝達による大腸菌とのシャトルベクターで、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を本プロモーターの支配下においたベクタープラスミドをA. ferrooxidansに導入し、テトラチオン酸を生育基質とした組換え菌株は、薬剤耐性を持ち緑色蛍光を示した。これによりGFPのA. ferrooxidansを宿主とした組換え発現に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Af-Tthの結晶構造解析により、活性中心のD325近傍に位置する3つのメチオニン残基からなる特徴的な構造であるMetクラスターに着目した。それぞれをアラニン残基に置換する部位特異的変異導入を行ったところ、M279A変異酵素だけが活性を失い、これが3つのMet残基において最も重要な役割を担っていることが分かった。またM279A変異酵素のX-線結晶構造解析も行った結果、M279A変異を確認することができ、これ以外の立体構造などについて野生型酵素とほとんど差異が確認できなかったことから、活性の消失はM279のアラニン置換によることを証明した。 本研究はAf-Tth酵素タンパク質だけでなく、これをコードする遺伝子Af-tthについてもその発現解析を行ってきた。Af-tthは二価鉄で生育した際にはその発現は抑制されており、テトラチオン酸を生育基質とした場合に強く発現することから、この発現を担う制御機構を持つプロモーターの存在が示唆され、本菌のテトラチオン酸生育時において強く発現を促進するプロモーターであることが期待できた。そこでAf-tthの転写発現に関する解析を行った結果、Af-tthの転写開始点とプロモーター領域を同定し、これを利用した本菌の組換え遺伝子発現ベクターを構築することができた。接合伝達による大腸菌とのシャトルベクターで、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子をレポーター遺伝子として本プロモーターの支配下においたベクタープラスミドをA. ferrooxidansに導入し、テトラチオン酸を生育基質とした組換え菌株は、薬剤耐性を持ち、さらに緑色蛍光を示した。また、SDS-PAGEにより組換え菌株においてのみ、GFPに相当するタンパク質バンドを確認することができた。これによりGFPのA. ferrooxidansを宿主とした組換え発現に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の研究結果により、Af-Tthのユニークな活性に3つのメチオニン残基からなるMetクラスターにおいて、M279が特に重要であることが分かった。したがって、これをシステインに置換したAf-Tth M279C変異酵素を作成することで、基質の硫黄原子とシステインのチオール基との相互作用を観察することが期待できる。 またA. ferrooxidansを宿主としたGFP組換え発現に成功したことから、次はアフィニティタグ(His-tagなど)を導入したAf-tthを本菌で組換え発現することによって、大腸菌組換え発現では生育pHの違いのために封入体でしか獲得できない本遺伝子産物を活性を持つ酵素として、さらにアフィニティタグが付与されていることで格段に簡便に分離・精製できると考えられる。本手法を確立できれば、大腸菌封入体からの煩雑な酸性refolding処理を必要とせずに、直接A. ferrooxidansから本来の成熟化酵素を獲得できる。このことは部位特異的変異を導入したAf-Tth酵素を直接菌体抽出液から分離・回収が可能となる。加えてAf-Tthのみならず、機能未知の遺伝子産物を正常な状態で分離・回収できるので、これの機能解析にも応用することが期待できる。
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