2021 Fiscal Year Research-status Report
脂肪酸のTLR10発現誘導機構の解明と生体塗布での抗炎症作用の検証
Project/Area Number |
21K05889
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
河原 岳志 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (30345764)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | Toll様受容体10 / 脂肪酸 / 皮膚角化細胞 / 油脂 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はこれまで皮膚角化細胞を用いて皮膚炎症に対して保護的な効果があるとされるダチョウ油脂の抗炎症効果の研究を通じて、トリグリセリドを構成する脂肪酸が抗炎症性受容体であるToll様受容体(TLR)10の発現を誘導する作用を見出した。しかし、生体構成成分である脂肪酸がなぜTLR10を誘導するのか、その生物学的意義については明らかではない。本研究では遊離脂肪酸によるTLR10誘導作用の作用機序の解明を目指すとともに、生体における影響を評価することを目的とした。 検討に用いてきたダチョウ油の成分解析の結果をもとに、油脂の主用構成成分である長鎖の飽和脂肪酸ならびに一価・多価不飽和脂肪酸成分を明らかにし、これらを対象に検討を進めていた。本年度はTLR10誘導という免疫学的応答の本質が外的・内的脅威の排除にあるという仮説をもとに、TLRの応答対象であるPAMPsやDAMPsとしれ知られる分子に位置付けが近い脂肪酸に着目した。具体的にはアシル基に水酸基、シクロプロパン環やヒドロペルオキシ基などの特殊構造をもつ細菌由来脂肪酸や過酸化型脂肪酸の市販品を入手し、これらのTLR10発現誘導能について詳細な解析を行った。検討の結果、これらの脂肪酸の単独使用は生体や食品由来の脂肪酸と比較して細胞毒性が予想以上に強く、処理条件の大幅な見直しが必要であったが、これまでより低濃度処理条件においてTLR10誘導能の高いパルミトレイン酸と同等以上の誘導能がみられることを明らかにした。これと並行してTLR10誘導に及ぼす各種シグナル伝達阻害剤やアゴニスト・アンタゴニストを用いた影響解析を通じて複数の転写因子が関与候補として見出されたため、有力候補の一つとなるNF-κBを対象に、活性化能を定量的に評価するルシフェラーゼアッセイ系の構築を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
TLRのリガンドとして病原体関連分子パターン(PAMPs)とダメージ関連分子パターン(DAMPs)の2系統のリガンドが知られているため、それらの位置付けに近い存在で、かつ微生物由来のアシル基に特徴的な構造をもつ脂肪酸(シクロプロパン脂肪酸や水酸化脂肪酸)ならびにダメージを受けた過酸化脂肪酸によるTLR10発現誘導作用について評価を行った。これらの脂肪酸はこれまでのように高濃度(10~100 μM)での処理条件において、生体由来の脂肪酸と比較して細胞毒性が強く出ることが明らかとなった。これらの結果を受け、全体の処理条件を低濃度かつ短時間にする方向性で比較用データの取得を行った。検討の結果、これらの脂肪酸は1 μMオーダーの処理条件で、TLR10誘導能の高いパル未トレイン酸と比較して有意に強い誘導能を示したものの、濃度や時間の制約が多いことが問題点として浮上した。この点については他の構造をもつ脂肪酸にも対象を広げ、引き続き検討は継続する。 上記結果からTLR10の誘導は何らかのTLR自身の活性が関与している可能性が示されたため、NF-κB活性化を定量的に評価するためのレポーターアッセイ系の構築を試みた。具体的にはTLR10誘導能が示されているHaCaT細胞にNF-κB刺激に応じたSEAP分泌能を付与するプラスミドならびにTLR10 応答に関連する各種TLR発現プラスミドを導入し、皮膚角化細胞をベースにしたNF-κB応答性レポーター細胞の樹立を行った。今後はこれとは別に一部のTLRだけを単独発現するレポーターアッセイ系の構築を行い、これらの細胞応答の脂肪酸処理による活性化の有無の評価を行っていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
細胞培養系による研究の方向性自体に変更はなく、これまでの研究成果をもとにより詳細な検討を行っていく計画である。ただしこれまでの検討は細胞株であるHaCaTを用いた解析であり、真に皮膚角化細胞の状態を反映できているかという問題が残っているため、正常皮膚角化細胞との比較検討は必須である。この点に関しては、正常皮膚角化細胞の培養に必要なヒトコラーゲンの供給状況が回復し次第、検証を行う予定である。 TLR10発現誘導に至るシグナル伝達経路の解析については、現在先行して行っているHaCaT細胞におけるレポーターアッセイ系だけでなく、単独のTLR発現状態で活性化の評価が可能な系の構築を平行して進めている。一般的に用いられるHEK293細胞について検討は実施済みであるが、薬剤処理後も生き残る細胞が多く選択が十分に機能していない可能性が示されたため、他の細胞株や別系統の薬剤選抜の利用も視野に入れ引き続き検討を進めていく予定である。 細胞が脂肪酸処置によって受ける影響に関し、実験計画の段階では自然拡散による細胞内への移行を想定していたが、CD36など能動的に脂肪酸を細胞内に取り込み機構やS -パルミトイル化を触媒する酵素によるTLRシグナルを活性化し得るとする研究報告もあるため、それらに関わる分子の増減や挙動に及ぼす影響についても検討項目に加えることとした。 以上の細胞培養系での検討は最終年度にかけて予定している実験動物を用いた生体塗布試験の対象となる脂肪酸のスクリーニングを兼ねた計画となっているが、今年度取り扱った脂肪酸はいずれも高濃度で細胞毒性がみられたことから、現時点ではパルミトレイン酸の利用を最有力候補と考えている。この点については引き続き候補となる脂肪酸も対象に検討を継続していく予定である。
|
Research Products
(3 results)