2022 Fiscal Year Research-status Report
PP2A活性制御を軸とした癌ニッチにおける癌関連筋線維芽細胞CAFsの役割解明
Project/Area Number |
21K05919
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
佐藤 晃一 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (90205914)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | がん / SET / 筋線維芽細胞 / CAFs / がんニッチ / 微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん組織は、がん細胞だけで形成されるのではなく、がん関連線維芽細胞(CAFs)をはじめとした様々な細胞が混在し(がんニッチ)、がん微小環境を構成していることが知られている。そのため、がん細胞とがん微小環境の相互作用は、がんの病態を理解する上で重要な現象として注目を集めている。近年では、CAFsはがん細胞により教育され,がん微小環境において重要な役割を果たすことから、CAFsは新しい切り口に立った抗腫瘍薬の創薬標的として注目されている。申請者は,正常組織の筋線維芽細胞とCAFsの違いを明らかにすることが,新規抗がん戦略の創出に不可欠と考え、2021年度より本研究課題を実施している。また、申請者がこれまで行ってきた研究を元に、CAFのSET発現上昇ががん微小環境に果たす役割を解明することで,筋線維芽細胞を標的とした抗がん戦略の基盤を構築することを目的として実施している。一方、SETは、多くのがん細胞において発現の上昇が確認されている「がん促進因子」である。申請者等は以前、大腸がんおよび胃がんの組織において、SET ががん細胞だけでなく一部のCAFs にも発現していることを見出し報告している。その後、SET がCAFs のサイトカイン分泌に与える影響を網羅的に解析したところ、SET発現抑制により、大腸がんや胃がんの予後不良マーカーであるオステオプロテジェリンの分泌が低下する可能性が示された。しかし、SETがオステオプロテジェリン分泌を制御する分子機構は明らかにできておらず、本研究ではこの点を解明することを目的として研究を行い、2021年度末に、これまでの成果をCancer Scienceへ投稿したがacceptされなかったことから、レフリーコメントを参考に更なる実験の追加を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Cancer Scienceへの投稿内容は、マウスより作製したCAFs 様細胞株LmcMF のSET発現を抑制することによりTGF-β刺激によるOPG の分泌および転写が抑制された結果を中心にまとめている。また、薬理学的解析から、TGF-βの下流の転写因子Smad3 がOPG の転写を促進することが認められたが、SET発現抑制はむしろSmad3 の転写活性を上昇させることも見いだした。SET はヒストンシャペロンとしての機能ももつことから、エピジェネティックな変化によって転写が阻害されている可能性が考えられた。そこで、SET発現抑制がヒストン修飾に与える影響を解析したところ、ヒストンH3のアセチル化レベルの低下が認められた。さらに、ヒストンアセチル化レベルの上昇によりOPGの転写が促進されることが明らかになった。これらの結果から、SETのヒストンシャペロンとしての機能がヒストンアセチル化を促進することでOPG 発現を上昇させることが示唆している。このように、本研究ではLmcMFを用い,SETが筋線維芽細胞の表現型やがん組織の成長に与える影響を解明するために研究を行い投稿したがacceptされなかった。査読者からのコメントは複数あり、ヒト患者(腫瘍と非腫瘍)の組織学的検索サンプル数が少ないこと、TGF-β 刺激時の SET 発現の役割の解明は興味深いがこの実験に使用したマウスの筋線維芽細胞株が一種類である事に加えて、ヒト患者組織から作成したprimary CAFsが用いられていないこと、さらにSETとTGF-β シグナリング間の PP2Aの役割が不明瞭であることなどであった。そこで2022年度はこれらの指摘に対応するために研究を行ったが、ヒトサンプルの収集など短期間で対応できない事項が複数あり、引き続き実験を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」および「現在までの進捗状況」に記載のとおり、現在、レフリーコメントに対応するための実験を実施中である。2023年度は、これらのコメントへ対応し再投稿を行う予定である。再投稿にもかかわらず、もしもRejectとなった場合には、レフリーの指摘を考慮しながら、他のジャーナルへの投稿を検討する。2023年度実施する具体的実験計画としては、以下の項目を実施する定である。ヒトの大腸がん組織を入手して組織切片の数を追加すること、ヒトのがん組織よりprimary CAFsを単離してLmcMFと同様の実験を実施すること、さらに次世代シーケンスを用いて取得したリード情報をデータ解析することで遺伝子の発現量が解析できるRNAシークエンスを実施し、SETとTGF-β シグナル間の PP2Aの役割を明らかとすることである。現在、各種実験を行っており、少しずつデータは増えつつあるが、まだ例数が足りておらず2023年度は引き続き実験を追加する。前述の通りヒトの患者組織を用いた実験は短期間で実施する事は困難である。加えて、申請者は獣医系研究者であることから、医学系研究者よりもさらに時間を要する。しかし、現在、医学部の協力者を仰ぐことで研究を実施しており、2023年度中に研究を終わらせ、acceptをめざす予定である。
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