2022 Fiscal Year Research-status Report
Generation and control of non-B form DNA in the nucleus: a genome-wide approach
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21K06012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須谷 尚史 東京大学, 定量生命科学研究所, 准教授 (30401524)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | DNA / 非B型DNA / ゲノム / ゲノム不安定性 / Smc5/6複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ゲノム上に存在する正常な形状ではないDNAである「非B型DNA」に注目し、その解析を行っている。非B型DNAは、ゲノムの不安定性を引き起こす要因と考えられている。本研究課題では、非B型DNAの種類、存在する場所、生成のメカニズム、細胞がどのようにゲノム不安定性に対応しているかなど、諸点を明らかにすることを目的としている。 これまでに、ゲノム維持機構に必須な因子である「Smc5/6複合体」を端緒とし、数理モデルを構築することにより、出芽酵母ゲノムにおいてSmc5/6の結合を誘起する要因を同定した。この要因は、転写に起因するDNAの正の超らせんの蓄積がSmc5/6結合と関係することを示唆していた。今年度は、この推測を実験的に検証した。具体的には、強発現の遺伝子をゲノム上に挿入したり、DNAトポイソメラーゼを不活化する実験によって、転写によって蓄積するDNA超らせんがSmc5/6の結合を誘導することを確かめた(以上、スウェーデン・カロリンスカ研究所のBjorkegren教授らとの共同研究)。正の超らせんによってゲノム不安定性の原因となる何らかの異常なDNA構造が生じ、Smc5/6はこれを認識しているものと考えている。 一方で、予備的研究から、Smc5/6結合を誘起する具体的な要件は生物種によって異なる可能性が示唆された。異常なDNAが生成される条件は一つではなく、複数存在しているのかもしれない。今年度は、分裂酵母において高品質なChIP-seq結合プロファイルを取得した。Smc5/6の分裂酵母における結合箇所の密度は出芽酵母におけるそれよりも大きいことが見出された。現在、分裂酵母における結合箇所の規定要因を特定するための情報学的解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的であった非B型DNAのゲノム上での網羅的同定には、技術的な問題があり、大きな進捗は上げることができていない。しかしながら、Smc5/6複合体に焦点を当てたゲノム学的解析および情報学的解析を通じて、正のDNA超らせんが異常構造DNA(非B型DNA)の生成要因となる可能性があることを突き止めることができた。今後は、Smc5/6結合部位に着目したDNA構造の詳細な解析を進めることで、このクラスの異常構造DNAの理解を大きく進めることが期待される。 また、Smc5/6結合部位の規定要因は生物種によって異なることが判明してきた。染色体の性質(長さ、AT含量、遺伝子の長さや存在密度)の違いによってそのような差異が生じている可能性がある。今年度の進展として、分裂酵母におけるSmc5/6結合プロファイルの解析に成功した。今後この結合プロファイルの情報学的解析を推し進めることにより、Smc5/6が認識するDNA構造の実体が多面的に理解されてくると考えられる。 以上より、総合的に見て研究の進展は十分であると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
Smc5/6複合体の結合位置に存在する非B型DNAの実体を解明することを目指した研究を行う。ssDNA-seq等のゲノム学的手法を活用する計画である。また、光ピンセットを用いた一分子計測により、Smc5/6複合体が親和性を示すDNA構造を生化学的に調べることも検討している。分裂酵母におけるSmc5/6結合プロファイルを数理モデルにより再現することにも取り組む。これによりSmc5/6結合が誘起されるさまざまな条件が明らかとなり、Smc5/6が認識する異常DNA構造の実体がわかってくるものと考えている。
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