2022 Fiscal Year Research-status Report
同じファミリーに属する転写因子間の標的遺伝子の特異性のコントロール
Project/Area Number |
21K06017
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石井 いずみ (小田いずみ) 京都大学, 理学研究科, 特定研究員 (40624309)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | Zic / 転写調節因子 / 結合モチーフ / ホヤ |
Outline of Annual Research Achievements |
発生過程は転写因子が協調して細胞の種類に応じ異なる標的遺伝子の発現を調節することで進行する。この過程で同じファミリーに分類される転写因子は、類似したDNA結合モチーフに特異的に結合するにも関わらず、異なる標的遺伝子の調節を行う例が報告されている。このような特異性がどのようにコントロールされているのかという問いの答えを探るために、本研究ではホヤ胚を用いて、2つのZic因子がどのようにして共通のまたは異なる標的遺伝子の発現を特異的に活性化しているかを明らかにすることを目的としている。 令和4年度は、「Zic-r.aとZic-r.bの転写因子としての機能に違いがあるかを明らかにする。」ために、以下の実験を行った。①2つのZic因子の各細胞内のタンパク質量を比較するために、抗Zic-r.b抗体を作成した。この抗体を用いた抗体染色のプロトコルを確立し、予定神経索、脊索、筋肉、間充織前駆細胞の核でZic-r.bタンパク質を検出することができた。②Zic-r.aとZic-r.bの結合モチーフへの結合親和性を比較するために、Zic下流遺伝子のシス調節領域内のZic結合モチーフ類似配列とZic因子の結合親和性をゲルシフトアッセイにより解析した。 また、Zic因子による標的遺伝子の転写調節の特異性には、Snailなどのリプレッサーによる転写抑制も関与していると考えられる。したがって、「リプレッサーによる抑制を明らかにする」ために、SnailのChIP解析および、モルフォリノオリゴによる機能阻害胚のtranscriptome解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、抗Zic-r.b抗体を作成し、Zic-r.aとZic-r.bを特異的に検出することを可能にした。Zic-r.b抗体染色のシグナルはZic-r.b mRNA発現細胞またはその子孫細胞の核で検出されたが、Zic-r.aが発現しZic-r.bは発現しない、胚後端の細胞では検出されなかった。これにより、各細胞での2つのZicタンパク質の発現量を測定し、比較することが可能になったので、初期原腸胚を用いた解析を開始した。 次に、Zic-r.aとZic-r.bの結合モチーフへの結合親和性を比較するために、Zic因子の標的遺伝子として報告されているTbx6-r.b, Brachyury, Mnx, Foxbのシス調節領域内のZic結合モチーフの類似配列を探索した。見出された配列のゲルシフト競合アッセイを行い、各配列のZic-r.aまたはZic-r.bに対する結合親和性を調べた。これによりcanonical結合モチーフに高い類似性を示す配列が、Zic-r.aより強く結合することが確認され、これは以前に得た結果と一致している。現在、これらの配列のZic-r.bに対する結合親和性の解析および、Zic-r.aとの比較を進めている。 Zic標的遺伝子の転写調節への関与が報告されているSnailによる転写抑制について明らかにするために、SnailのChIP解析および、モルフォリノオリゴによる機能阻害胚のtranscriptome解析を行った。これまでに報告されたSnailによる転写抑制の発生過程における役割および、Zic因子の標的遺伝子特異性に与える影響を再度検証し、その役割を包括的に明らかにする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は以下の実験を行い、実験実施計画の内容を進める予定である。 ①Zic-r.aとZic-r.aの複数の結合モチーフに対する親和性の違いをもたらす、タンパク質構造の違いについて明らかにする。 これまでの実験結果により、Zic-r.aとZic-r.bでは、Zic因子のcanonicalモチーフおよびnon-canonicalモチーフに対する結合親和性の特徴が異なることが示唆されている。Zic-r.aはcanonicalモチーフに強く結合し、その結合親和性はnon-canonicalモチーフに対する結合親和性の40倍以上と推定される。この結合親和性の違いがZic因子のタンパク質構造のどの部分に起因しているか明らかにするために、野生型または変異を挿入したZic因子とZic結合モチーフをもつレポーターコンストラクトをホヤ胚内で共発現させ、誘導されるレポーター遺伝子の発現の違いをin situ hybridization、抗体染色または、RT-qPCRによって測定する。 ②Zic因子の転写調節におけるSnailおよびTcf7による転写抑制の役割を明らかにする。 Zic-r.b標的遺伝子の一つであるBrachyuryが脊索特異的に発現するためには、リプレッサーとしてはたらくSnailが関与しているとの報告がある。しかし、令和4年度に行ったSnailのChIP-seq解析および、Snail機能阻害胚でのtranscriptome解析から、これを支持する結果は得られなかった。したがって、Zic因子が細胞系譜特異的に特定の標的遺伝子の発現を活性化するしくみに、リプレッサーの存在が必要なのか再度検証する。また、Zic-r.aによるTbx6-r.bの転写調節に関与している可能性があるTcf7についても、Tbx6-r.bのシス領域の解析により、そのはたらきを検証する。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた学会のリモート開催への変更や開催延期により、予定していた旅費が必要なくなったため使用額に変更が生じた。
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