2023 Fiscal Year Research-status Report
転写因子ZEB1のプロテアソーム制御によるEMT多様性創出の分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
21K06025
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
渡邉 和秀 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 客員主管研究員 (40749397)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 上皮間葉移行 / ZEB1 / 細胞多様性 / 転移性乳がん / ユビキチンプロテアソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
癌細胞の悪性化は、癌の浸潤・転移能力の増加や治療抵抗性の獲得が重要な分子機序の1つであり、その中でも上皮間葉移行(EMT)が重要である。国内外の研究により、EMTの表現型には様々な段階が存在し、腫瘍内の細胞に一様に起こるわけではなく、腫瘍細胞の微小環境に依存していることが明らかになっている。例えば、転移性乳癌の空間トランスクリプトームのデータを解析すると、腫瘍辺縁部では癌細胞がより間葉系のEMTスペクトラムを呈し、EMT誘導性転写因子ZEB1の標的遺伝子の活性が高まっていた。筆者らはEMTの多様性が生じるメカニズムの1つとして、細胞の微小環境がZEB1の機能に影響する、という仮説を立てた。本研究の目的は、ZEB1を介したEMT感受性の多様化により癌細胞が多様性を持つメカニズムを細胞レベル・組織レベルで明らかにし、将来的に新しいEMTを標的とした治療法を確立することである。 細胞レベルの解析の結果、細胞密度の変化によってZEB1タンパク質の安定性が制御されることが判明した。またユビキチンプロテアソーム関連の分子の阻害剤によりZEB1の安定性が増加したため、ZEB1の安定性に関わる因子をスクリーニングし、重要な分子として脱ユビキチン化を担うUSP51という分子を同定した。転移性乳がん細胞において、USP51の遺伝子ノックダウンにより、ZEB1の安定性が減少することを明らかにした。またUSP51とZEB1は直接結合し、その作用はCDK4/6の影響を受けることが示唆されたため、CDK4/6の阻害剤を用いた実験を行った。CDK4/6を阻害すると、転移性乳がん細胞の細胞増殖が抑制されると同時に遊走・浸潤といったEMTの表現型が阻害された。これらの結果は、CDK4/6-USP51経路の阻害が細胞増殖と転移・浸潤の両方を同時に標的とする新しいがん治療法へつながる可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ZEB1タンパク質の安定性の分子制御メカニズムのスクリーニングに数年間を費やしたが、CDK4/6-USP51というターゲットが同定できたことで、メカニズムの解明が大幅に進んだ。分子レベルでの結合解析やノックダウン、阻害剤を用いた実験を行い、このパスウェイが転移性乳がん細胞の悪性度に大きくかかわっていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
CDK4/6-USP51経路がZEB1の安定性を制御する分子メカニズムの詳細を明らかにするため、ZEB1とUSP51の結合メカニズムの詳細やZEB1の安定性に関わるリン酸化修飾を同定する。また遺伝子変異の導入により、ZEB1のユビキチン化部位を同定し、プロテアソーム分解を受けないZEB1の変異体を発現させた細胞がコロニーもしくは腫瘍内でどのような挙動を示すかを解析する。さらにUSP51の上流シグナルとしてCDK4/6およびPI3k/Aktに着目し、これらのシグナルとZEB1の安定性及びEMTの表現型に関して細胞モデルを用いて解析する。 更に動物実験において、CDK4/6阻害剤が、転移性乳がんの移植腫瘍の増殖と肺転移に与える影響を明らかにする。
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Causes of Carryover |
予定していたシングルセルトランスクリプトーム解析が見合わせになったため
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