2022 Fiscal Year Research-status Report
The relationship between cystine and glucose metabolism in cancer cells
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21K06065
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
加藤 裕教 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (50303847)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | がん / シスチン / フェロトーシス / 神経膠芽腫 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くのがん細胞は、正常な細胞に比べてグルコースに対する依存性が高く、グルコースが欠乏した環境下ではすぐに細胞死を引き起こす。我々は最近、脳腫瘍の中でも悪性度の高い膠芽腫細胞のグルコース依存性に、アミノ酸輸送系として働くxCTによるシスチンの取り込みが関与していること、さらには細胞が高密度で存在すると、mTORの不活性化によるxCTのリソソームでの分解を引き起こし、グルコース欠乏時でも細胞死が回避されることを明らかにした。このように、シスチン代謝とグルコース代謝は密接に関係し、互いに影響を及ぼしていることが考えられるが、その生理的意義や分子メカニズムについてはあまり理解が進んでいないのが現状である。本研究において我々は、がん細胞によって引き起こされるシスチン代謝とグルコース代謝の相互作用に焦点を絞り、これまで我々が明らかにしてきたxCTの機能に関わる一連の分子群の成果をさらに発展させることで、がん悪性化に関わる新たな分子機構の一端を解明することをめざす。今年度において我々は、xCTによるシスチンの取り込みを阻害することによって引き起こされる細胞死、フェロトーシスに関わる新しい分子メカニズムについて、神経膠芽腫細胞を用いて見出した。1つ目は、シスチンの取り込みが阻害されることに依存してREDD1の発現誘導が引き起こされ、その結果 mTORの活性低下とそれに伴うフェロトーシスの誘導が引き起こされることを明らかにした。2つ目は、Hippo経路の上流で働くタンパク質NF2/MerlinによってxCTの発現が制御され、神経膠芽腫細胞のグルコース依存性に寄与していることが示唆された。これらの結果は、神経膠芽腫に対する新たな治療法の開発に貢献する可能性があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画調書に記載した今年度における研究計画では、1)膠芽腫細胞の高密度培養時にxCTと複合体を形成するタンパク質の網羅的解析、2)高密度培養下においてmTOR活性の低下によるxCTの分解に関わる因子の探索とシスチン及びグルコース代謝への影響、3)フェロトーシスに対するグルコース 代謝の影響とそれに関わる分子の探索、について申請者は計画していた。1)については、膠芽腫細胞の溶解液をxCTの抗体で免疫沈降を行い、xCTと細胞内で結合しているタンパク質について質量分析法を用いた網羅的な解析を既に行っている。同定されたタンパク質については、in vitroにおけるxCTとの結合性についても確認しており、今後はその機能的意義について調べていく予定である。2)については研究実績の概要でも述べた通り、細胞の密度によって活性が変化するHippo経路の上流で働くNF2の遺伝子が欠損した神経膠芽腫細胞を樹立し、細胞が高密度で存在するときにおいてN F2がxCTの発現を抑制していることが示唆された。一方、mTORの活性を制御する分子の1つとしてREDD1が関与することが示唆された。3)については現在、グルコース飢餓とフェロトーシスの関係について、グルコース飢餓によって活性化されるAMPKの欠損細胞を樹立し、解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策については、我々は今回同定されたフェロトーシス誘導時にmTORの活性制御を担うREDD1について、その誘導される分子メカニズムとmTORの不活性化とフェロトーシス誘導との分子レベルでの関係について検討していく。また、質量分析法により同定されたxCTと相互作用の可能性がある他の候補タンパク質についても同様に解析を行い、各タンパク質とxCTとの結合の意義を探る。一方、細胞密度とxCTの分解に関する解析については、我々は樹立したHippo経路関連遺伝子NF2の欠損細胞を用いて、細胞密度の違いにおけるxCTのタンパク質の安定性やシスチンの取り込み、グルコース飢餓による細胞死への影響について検討を行う。また、同定されたxCT結合タンパク質についても、細胞密度の違いによる影響を検討する。一方、フェロトーシスに関する研究については、グルコース欠乏によりフェロトーシスが抑制されること、さらにこの作用にAMPKの活性化以外の関与を示唆する結果が得られている。今後、フェロトーシスの誘導に関わる新たな分子をRNAiライブラリーなどを用いることで同定するとともに、グルコース代謝との関係についても検討する。
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