2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the functions of factors involved in the maintenance of plasma membrane sterols and search for novel factors
Project/Area Number |
21K06076
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岸本 拓磨 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (70585158)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 細胞膜 / ステロール / 恒常性 / 物理状態 / 脂質分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物の細胞膜では、ステロールが高濃度に維持されるが、そのメカニズムは完全には解明されていない。我々は最近、細胞膜リン脂質非対称性が、ステロール分子の膜内維持に重要であることを明らかにした。また、脂質輸送活性を有さない細胞膜タンパク質Sfk1がステロール分子を細胞膜に維持していることを明らかにしている。現在までに脂質の分布を維持するタンパク質の関連としては、脂質輸送活性、すなわち、脂質分子を膜内に導入する、または、抽出するといった脂質分子の交換反応を中心に解析がなされている。我々が明らかにした脂質分子を膜内に保持するような活性は報告も少なく、そのメカニズムには不明な点が多い。そこで、本研究では、細胞膜脂質がどのようにステロール分子の維持に関わるか、また、我々が明らかにしたSfk1の機能の解明に加えて、このような活性を有するタンパク質が他に存在するかという疑問のもと、細胞膜ステロール分子維持機構の解明を目指した。我々は、研究を進める上で脂質膜環境の変化によりステロールが脂質二重膜表面に露出し、細胞膜から解離し易くなる物理状態(ステロール活性化)に注目し、研究を進めている。我々は最近、出芽酵母のエルゴステロール活性化を可視化するプローブ(GFPen-D4H)を開発した。本研究では、このプローブを用いて、Sfk1および未知の細胞膜タンパク質がエルゴステロールの活性化を制御する機構を解明するため、次の3課題を進めている。(1)脂質関連変異株を用いてエルゴステロールの活性化に関わる遺伝子を単離する。(2)Sfk1がエルゴステロール活性化を制御する機構を、人工膜を用いた実験で明らかにする。(3)遺伝学的スクリーニングによりエルゴステロール物理状態を制御する新たな細胞膜タンパク質を探索する。このような計画から制御因子を特定し、細胞膜ステロール制御機構の全容を解明したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)細胞膜脂質関連変異株を用いてエルゴステロールの活性化に関わる遺伝子の単離―所属研究室に保存されている脂質関連遺伝子変異株の解析を中心に、解析を進めた。その結果、多くの脂質変異株は、GFPen-D4Hの分布が消失する、または、野生株で見られる極性部位での分布とは異なり、細胞膜全体に強く観察されることが明らかとなった。これらの結果から、細胞膜脂質が相互作用してステロールの活性化を制御している可能性が示唆された。 2)Sfk1が有するエルゴステロール活性化における制御機能の人工膜を用いた実験での検証―本年度は膜タンパク質であるSfk1を酵母菌体内から抽出、精製することを目指した。出芽酵母でのタンパク質の高発現系の確立およびSfkタンパク質の抽出と界面活性剤による可溶化の条件を検討した結果、ガラクトース誘導条件によるGST融合タンパク質の発現効率が良好で収率が良いこと、また、検討した界面活性剤15種類のうち、n-ドデシル-β-D-マルトシドでのみ可溶化することが確認された。 3)エルゴステロール物理状態を制御する新たな細胞膜タンパク質を単離する遺伝学的スクリーニング―所属研究室が保存する遺伝子欠損ライブラリーのうち、約500種類の遺伝子欠損変異株について、ステロール結合性薬剤(amphotericinBとnatamycin)に対して感受性が変化する遺伝子変異株と顕微鏡観察下でGFPen-D4Hの分布が変化する遺伝子変異株の探索を行った。一次スクリーニングから得られた105種類について戻し交配を行い、薬剤に感受性を示し、かつ、GFPen-D4Hの分布が異常になる変異株約30種類を単離した。現在は、GFPen-D4Hのパターンを分類し、その分類と遺伝子機能との相関をクラスター解析を行い調査を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、現在進めている研究のうち、エルゴステロールの活性化を制御する因子の特定のスクリーニングを完了させることを目標とする。そのうち、細胞膜脂質関連変異株での解析は、活性化に重要な機能を有する脂質については複数種が特定されており、今後、人工膜上でのGFPen-D4Hの結合試験などを通して、活性化における脂質機能の詳細を特定する。また、いくつかの脂質は、GFPen-D4Hと同様に顕微鏡下での可視化するためのツールが存在していることから、そのような脂質については顕微鏡下での分布を解析し、エルゴステロール活性化との相関を明らかにする。また、細胞膜タンパク質の変異株については、GFPen-D4Hのパターンの分類と機能の相関を調査するクラスター解析から、代表的な変異株を選び出し、顕微鏡観察による細胞生物学的な表現型解析や変異遺伝子及びその関連遺伝子との遺伝学的相互作用などを解析する遺伝学的なアプローチを中心に解析を進める。細胞膜タンパク質Sfk1の機能解析についても、精製、可溶化の段階までは成功しているため、引き続きプロテオリポソームの作成のための条件検討を行う予定である。これについては、手技的な困難さも予想されることから、適宜、人工膜研究を専門とする研究者と議論しながら研究を進めていく予定である。プロテオリポソームの調製条件を確定させた上で、脂質種の組み合わせを変更した人工膜を調製しSfk1のエルゴステロール活性化における機能を評価したい。また、Sfk1が有するエルゴステロール活性化に関わる機能は、現在までの解析からSfk1単独の機能だけではないと推測される。Sfk1と協調的に機能する遺伝子を探索するため、前述の細胞膜タンパク質の変異とsfk1遺伝子の欠損変異を組み合わせた二重変異株を作成して、それらを同様のスクリーニングに導入した解析を開始している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による影響から本年度予定していた学会参加が全てオンライン開催になり、旅費については未執行が生じた。また、世界的な半導体不足のために、購入を予定していた装置全般が本年度中に納入することがきなくなったことが、物品費に次年度使用額が生じた大きな要因である。また、その他の費用としては、想定したよりも論文掲載料が低かったため、未執行が生じた。これらについては、物品の供給状況、学会の開催状況を踏まえ、研究計画の優先度を変更するなど、柔軟に対応することで次年度使用額の適切な執行が行えるように検討したい。
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