2022 Fiscal Year Research-status Report
膵β細胞におけるガレクチンラティスの機能メカニズムの解明と病態生理学的意義の理解
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21K06082
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
大坪 和明 熊本大学, 大学院生命科学研究部(保), 教授 (30525457)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ガレクチンラティス / 糖鎖 / PKC / Teneurin-3 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞膜を隔てた選択的輸送は、特異的トランスポーターやチャネル分子が担っている。これら分子の多くは糖タンパク質であり、その糖鎖を介した細胞膜上の局在調節が機能を制御していることが明らかになりつつある。細胞間質には糖鎖のβガラクトシド構造を特異的に認識し結合するガレクチンが存在し、細胞膜表面の糖タンパク質を架橋することで『ガレクチンラティス』という機能ドメインを形成する。我々のこれまでの研究から、膵臓β細胞においてGLUT2やCAT3が自身の糖鎖を介してガレクチンと結合し、ガレクチンラティスを形成することでグルコース濃度やアミノ酸濃度に応じたインスリン分泌応答が保持されていることを証明した。しかしながら膵臓β細胞におけるガレクチンラティスの機能メカニズムは不明である。 膵臓β細胞のガレクチンラティス複合体タンパク質の質量分析から同定したTeneurin-3をCRISPR-Cas9システムにより膵臓β細胞でノックアウトした結果、細胞表面におけるGLUT2の発現レベルが著しく低下していることが判明した。この結果は当初予想された通り、Teneurin-3が細胞外のガレクチンと細胞内の細胞骨格とを連結させ、ガレクチンラティスのアンカー分子となることを示唆するものである。一方、ラクトース処理により強制的にガレクチンラティスを破壊し、誘導したGLUT2のエンドサイトーシスがPKCを介していることが明らかになった。加えて、Teneurin-3ノックアウト細胞表面におけるGLUT2の発現レベルの低下もPKCの阻害により回復することが判明した。これらの結果は、ガレクチンラティスの形成にTeneurin-3が重要な役割を果たしており、ガレクチンラティスの形成障害や破壊が、PKCを介して膜タンパク質のエンドサイトーシスを誘導することを明示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請者らは膵臓β細胞のガレクチンラティス複合体の質量分析によりガレクチンラティスの構成分子を探索し、同定したTeneurin-3をCRISPR-Cas9システムによりマウス膵臓ベータ細胞株(Min6細胞)においてノックアウトした。興味深いことに樹立したノックアウト細胞は、ヘテロ接合体のみでありホモ接合体は得られなかった。この結果は、Min6細胞と同じ遺伝的背景をもつC57BL/6マウスにおいてTeneurin-3ノックアウトマウスの戻し交配を行うと3代までに全てのマウスが死亡することとよく一致し、Teneurin-3が細胞膜表面でのガレクイチンラティス形成を介したタンパク質の制御に重要な機能を果たすことを明示している。実際、Teneurin-3ヘテロノックアウト細胞の表面では、GLUT2の発現レベルが著しく低下していた。この結果は当初予想された通り、Teneurin-3が細胞外のガレクチンと細胞内の細胞骨格とを連結させ、ガレクチンラティスのアンカー分子となることを示唆するものである。 一方、ラクトース処理により強制的にガレクチンラティスを破壊し、誘導したGLUT2のエンドサイトーシスはPKC阻害剤処理により、抑制された。一方、PMA処理によりPKCを活性化するとガレクチンラティスを破壊しなくてもGLUT2のエンドサイトーシスが惹起された。加えて、Teneurin-3ノックアウト細胞表面におけるGLUT2の発現レベルの低下もPKCの阻害により回復することが判明した。これらの結果は、ガレクチンラティスの形成にTeneurin-3が重要な役割を果たしており、ガレクチンラティスの形成障害や破壊がPKCを活性化し、膜タンパク質のエンドサイトーシスを誘導することを明示している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、ガレクチンラティスの形成にTeneurin-3が重要な役割を果たしており、ガレクチンラティスの形成障害や破壊がPKCを活性化し、膜タンパク質のエンドサイトーシスを誘導することを明らかにした。しかしながら、このメカニズムに関与するPKCのアイソフォームは不明である。本研究で使用したPKC阻害剤はPKCα、β、γを阻害することから、これらが関与すると考えらえる。そこで、これら個々のPKCアイソフォームのドミナントネガティブ体を発現させ、関与するアイソフォームを検証する。一方、ガレクチンラティスの崩壊がどのようにしてPKCを活性化するのかは未だ不明である。PKCは細胞膜でのGタンパク質の活性化、PLCの活性化、IP3およびDAGの産生により活性化することから、細胞膜近傍での機能ドメインの構造的、質的な変化がPKCの活性化の引き金となることが推測された。実際、我々は質量分析によるガレクチンラティス構成タンパク質の探索から、Gタンパク質共役型受容体であるS1P2を同定している。S1P2はPLCの活性化やPKCを活性化することが報告されていることから、ガレクチンラティスの崩壊がS1P2を活性化し、PKCの活性化を介して、局所的なエンドサイトーシスを誘導していると推察している。そこで、ラクトース処理によるガレクチンラティスの崩壊を介したGLTU2のエンドサイトーシスにおいてS1P2阻害が効果を示すのかを検証し、その関与を明らかにしていく。
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