2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of protein molecular basis in the information transmission mechanism of magnetoreception
Project/Area Number |
21K06093
|
Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
新井 栄揮 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 上席研究員 (00391269)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | タンパク質 / 立体構造 / X線小角散乱 / 磁覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境中の磁気情報を感知する感覚「磁覚」を有する動物の多くは、網膜細胞上のクリプトクロム (CRY)を量子磁気センサーとして利用しうることが明らかにされている。しかし、CRYと相互作用して磁気情報を神経系に伝達するCRY受容体(CRY-R)は同定されていない。本研究では、近年の研究により報告されている複数CRY-R候補蛋白質を調製し、その候補の中から磁気受容機能発揮時のCRYを特異的に認識するCRY-Rを特定するとともに、CRY/CRY-R相互作用様式を明らかにする。これらの検討により、磁気情報伝達機構の分子基盤の解明に挑む。 2021年度は、代表的な磁覚保有種であるヨーロッパコマドリの磁覚を担うとされる蛋白質クリプトクロム4 (以下、erCRY4)、および、CRY-R候補蛋白質である電位依存性カリウムチャンネルサブファミリーV細胞内ドメイン2(以下、erKCNV2-2)の大腸菌発現系を構築し、それらの蛋白質の調製方法を確立した。また、磁気受容機能発揮時(青色光照射下)におけるerCRY4の構造学的特徴や分子挙動を、X線小角散乱法(SAXS)及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により精査した。放射光施設Photon Factory BL-10Cを利用してSAXS解析を行った結果、erCRY4単量体は、454nmの青色光を照射することにより、最大径が77Åから74 Åへ減少することが明らかになった。また、SAXSデータに基づくerCRY4のAb-initioモデリングを行った結果、青色光照射によりerCRY4の三次構造が収縮することが示唆された。これらの結果から、erCRY4は、磁気受容機能発揮時に三次構造が全体的に収縮する比較的大きな構造変化を生じ、量子磁気センサーとして機能するための固有の立体構造を形成することが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部の磁覚保有種の網膜細胞に存在するCRYは、地磁気程度の磁場を検出できる量子磁気センサーとして機能しうることが、多くの研究によって明らかにされつつある。現在提唱されている仮説では、青色光照射によって生じるCRY内のラジカル対の電子スピンが磁気情報を受容していると考えられており、それを支持する多くの研究結果が報告されている。一方、CRYの構造学的・分子論的研究は大幅に不足しており、そのため、量子レベルの微弱な磁気情報をCRYから神経系へ伝達して知覚化する仕組みは明らかにされていない。2021年度は、erCRY4への青色光照射が磁気情報受容に必要なラジカル対を発生させるだけでなく、比較的大きな立体構造変化を伴うことを明らかにした。この結果は、erCRY4が量子磁気センサーとして機能する際に、固有の立体構造を形成することを示唆する。即ち、erCRY4が受容した磁気情報をCRY-Rに伝達する際に、青色光照射時固有のerCRY4の立体構造を特異的に認識するCRY-Rが存在する可能性が明らかになった。この知見は、CRY-Rを特定するための重要な手掛かりとなる。以上のことから、おおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
主に下記1.及び2.の研究展開を図る。 1. 現在申請者は、erCRY4及びCRY-R候補蛋白質の一つであるerKCNV2-2の試料調製に成功している。2022年度は、erKCNV2-2以外のCRY-R候補蛋白質(電位依存性カリウムチャンネルサブファミリーV細胞内ドメイン1、G蛋白質α2サブユニット、G蛋白質γ10サブユニット、レチナール結合蛋白質、網膜G蛋白質共役受容体、鉄硫黄クラスター結合蛋白質など)の発現・調製系の構築を行う。不溶性画分に発現するCRY-R候補蛋白質は、シャペロンの共発現や、分子量の大きめのオリジナルな可溶性Tagのさらなる付加などを検討し、可溶性発現の効率を向上させる。 2. リアルタイムPCR、等温滴定熱量測定(ITC)、SAXS等の手法により、erCRY4とerKCNV2-2の相互作用解析を行う。また、上記1.のCRY-R候補蛋白質についても同様に、発現・調製系が構築できたものから随時erCRY4との相互作用解析を行う。更に、ITCやSAXSを用いた相互作用解析では、磁気受容機能発揮時のerCRY4を特異的に認識するCRY-R候補蛋白質を特定するために、蛋白質試料への青色光照射を制御する独自の試料セル及び光照射ユニットを開発して用いる。
|
Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】 新型コロナウイルス感染拡大の影響等により、出張等の中止に伴う旅費の一部未使用が発生した。また、一部の輸入物品(蛋白質精製カラム類など)の国内在庫が無くなったため、購入を次年度に延期した。また、購入予定であった光照射装置光源が生産中止となり、代替品を購入したため、差額が発生した。更に、一部の成果の論文発表を次年度に順延した。これらの理由により、次年度使用額が生じた。
【2022年度の使用計画】 前年度に購入が出来なかった輸入物品(蛋白質精製カラム類など)を購入する。また、前年度に購入した光照射装置光源を高度化してITCやSAXSと併用するための制御機器(パルスジェネレーターなど)やデータ解析用PC、消費が激しいSAXS用試料セル作製材料(石英薄膜板など)を購入する。また、一部のCRY-R候補蛋白質の試料調製に必要となる合成遺伝子・試薬類・器具類等の購入費を計上する。更に、論文投稿等の成果発表費を計上する。
|
Research Products
(4 results)