2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K06095
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 友美 京都大学, 理学研究科, 助教 (10362435)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光操作技術 / 光受容体 / 脂質輸送体 / 生体膜機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「フリッパーゼ活性を光で制御するシステムの確立」である。その原理は、青色光受容体フォトトロピン(PHOT)によるフリッパーゼの光制御であるが、本来PHOTが存在する植物において、フリッパーゼを制御するのかについては未だ分かっていなかった。そこでシロイヌナズナを用いて、植物でのPHOT情報伝達系へのフリッパーゼの関与を調べた。シロイヌナズナにはフリッパーゼ(ALA)が12種類あるが、その各単独変異についてPHOTが制御する応答を詳細に調べた。その結果、いくつかのala変異株においてPHOT応答の異常が見られることが判明した。そこで、PHOT情報伝達系におけるALAの役割を明らかにするため、ALA遺伝子の発現をmRNA及びタンパク質レベルで調べPHOTの発現と比較した。また、GFP-ALA発現植物体を作出し、その植物体を用いてGFP-ALAの細胞内局在も詳細に解析した。その結果、ALAとPHOTが同じ組織で発現していること、両タンパク質は共に細胞膜に局在していることを明らかにした。さらに植物体内で両タンパク質が物理的に相互作用していることも示すことに成功した。これらの結果は、既に申請者が示してきた「酵母でのPHOTのフリッパーゼ光制御」がPHOTを異種発現したことによる人為的な影響が観察されていたのでは無く、本来PHOTにはフリッパーゼを制御する機能が保持されているという可能性を強く示唆するものである。また、酵母だけでなく植物でもフリッパーゼを制御するキナーゼが存在することを示しており、このことはフリッパーゼ・キナーゼが真核生物に普遍的に存在する可能性をも意味する。これは、ヒト培養細胞でフリッパーゼを光制御するシステムを確立する本研究の目的を達成するための非常に重要な結果である。これらの成果は、第63回日本植物生理学会年会にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、ヒト培養細胞にてフリッパーゼ活性を緑藻の青色光受容体CrPHOTによって制御する光操作技術を確立することである。そのため、(a) CrPHOTによって制御可能なヒト・フリッパーゼを取得する。(b)得られた候補フリッパーゼの情報を元に、CrPHOT導入ヒト培養細胞での酵素活性、及び(c)膜機能・細胞機能の光制御を解析する。(d) CrPHOTの代わりにフリッパーゼを制御しうるヒト・キナーゼを取得すること、を計画した。2021年度は計画(a)については遅れているものの、(d)の研究は概ね順調に進めることができたので、その状況を下記する。 (a) CrPHOTによって制御可能なヒト・フリッパーゼの取得。CrPHOTによる制御検定を行う前に、結果が判別しやすい酵母キナーゼFpksによる検定を先に行うことにした。最初に、検定に用いるフリッパーゼ変異酵母株と遺伝子導入用のプラスミドベクターを作成した。その後、ヒトに存在する14種類のフリッパーゼ遺伝子のクローニングを試み、10種類のクローニングに成功した。そのうち8種類のフリッパーゼについてFpksによる制御を検定したところ、3種類のフリッパーゼがFpksによって活性化されうることが判明した。 (d) ヒト・フリッパーゼキナーゼの取得。フリッパーゼを制御しうるキナーゼを取得する目的で、Fpksキナーゼに類似したいくつかのヒト・キナーゼを酵母fpks変異株に導入しフリッパーゼ制御検定を行った。その結果、2種類のキナーゼ候補の取得に成功した。これら候補因子のキナーゼ領域のみの断片を酵母株に導入すると、その活性が全長領域を導入した場合に比べ飛躍的に上昇することも判明した。この結果から、おそらくキナーゼ活性依存的に酵母フリッパーゼを制御している可能性が高いと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究に引き続き、4つの研究項目について研究を進めていく予定である。各項目の方策について下記する。 (a) CrPHOTによって制御可能なヒト・フリッパーゼの取得。14種類のヒト・フリッパーゼのうち、クローニングが困難であった残りの4種類を取得する。これはDNAを全合成することによって問題を解決する予定である。得られた全ヒト・フリッパーゼをそれぞれ酵母株に導入し、Fpksによって活性化されうる候補フリッパーゼを検索する。得られたフリッパーゼについて、CrPHOTによって光依存的に活性化されるのか解析する。 (b) 培養細胞での脂質取込活性の測定。上記(a)の解析を進めながら、先ずはヒト培養細胞にCrPHOTや恒常的活性化型CrPHOTを導入し、CrPHOT依存的な脂質取込活性を解析する。また、CrPHOTによる活性制御が既に証明された酵母フリッパーゼを培養細胞に同時に導入することで、脂質取込活性が測定できるのかも試してみる。 (c) フリッパーゼ候補が関与する膜機能・細胞機能の測定。上記(a)で取得されたフリッパーゼ遺伝子の情報を元に、CrPHOT導入ヒト細胞において膜機能や細胞機能が光制御できるか解析する。 (d) ヒト・フリッパーゼキナーゼの取得。先ずは得られたヒト・キナーゼの培養細胞でのフリッパーゼに関連した機能解析を行う。また、フリッパーゼへのリン酸化についても検討する。
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Causes of Carryover |
本研究課題では、酵母キナーゼ又はCrPHOTによって活性化されうるヒト・フリッパーゼを取得した後、ヒト・培養細胞にて検定を行う計画としていた。先ずは14種類のヒト・フリッパーゼ遺伝子のDNA入手が必須であるため、そのクローニングを試みたが非常に難航し計画通りに解析を進めることが出来なかった。これは、フリッパーゼの細胞内発現量が非常に低いことが理由として挙げられる。そこで様々な手法を試みクローニングを行ったところ、現段階で漸く10種類のクローニングに成功することができた。クローニング出来た一部の遺伝子については酵母での検定を進めることができた。しかし、上述のようにクローニングに時間を要してしまい2021年度に行うはずの解析が遅延したことで、次年度に使用額が生じる結果となった。クローニングが出来ていない残りの4種類については、DNAの全合成を行うことで完遂する予定である。2022年度は、未完のクローニングを行うと同時に、既に同定している候補遺伝子について酵母でのさらなる詳細な検定を行う。さらにCrPHOTの培養細胞への導入を早めに進めていくことで、遅れた分の研究計画を遂行する予定である。
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