2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K06095
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 友美 京都大学, 理学研究科, 助教 (10362435)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 光制御 / 細胞機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体膜の脂質は膜内および膜間で不均一に分布する。このような脂質の不均一な分布は、生物の分化・発達段階において局所的に激変し、その変化が小胞輸送、細胞分裂、アポトーシス細胞の除去、細胞運動、免疫反応など様々な細胞機能を制御する。真核細胞において、この脂質の分布変化を形成するのが脂質輸送体であり、その一つがフリッパーゼである。フリッパーゼは細胞のライフサイクルを通して「いつでも、どこでも」機能している訳ではなく、細胞の状態に合わせて限定的な場所で限定的な時刻に機能するよう制御されている。その限定的な活性化が正常な細胞機能に必須であると考えられているが、どのように時空的な精密さで活性が制御されるのか、そのメカニズムは不明な点が多い。そこで、そのメカニズム解明への貢献を目的に、様々な生物でも利用可能な光操作システムの構築を試みた。我々は既に、出芽酵母においてフリッパーゼの活性を青色光受容体フォトトロピンによって光制御するシステムを確立している。今年度は、そのシステムを用いて、酵母および植物のフリッパーゼ活性の光制御を検討した。先ずはいくつかの植物のフリッパーゼ遺伝子を酵母発現系ベクターにクローニングした。それら遺伝子を、酵母フリッパーゼキナーゼFpksの制御によってフリッパーゼの活性を検定できる酵母株に導入した。その結果、Fpks制御下にて機能するフリッパーゼを数種類取得することに成功した。さらにその制御に関与するアミノ酸配列の同定にも成功した。そのアミノ酸配列については、植物のみならず酵母や哺乳類のフリッパーゼにも広く保存されていることが判明した。これらの結果から、様々な生物において普遍的なフリッパーゼ活性の制御メカニズムが存在する可能性が推測された。今後、フリッパーゼ活性の制御メカニズムをより明らかにするために、同定したアミノ酸配列の役割について詳しく解析を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、フリッパーゼの制御メカニズムの解明とフリッパーゼが関与する細胞機能を光で制御する技術の確立をめざし研究を進めている。光制御のツールとして緑藻の青色光受容体CrPHOTを利用し、(a) CrPHOTによって制御可能なフリッパーゼを取得する。(b)得られた候補フリッパーゼの情報を元に、CrPHOT導入ヒト培養細胞での酵素活性、及び(c)膜機能・細胞機能の光制御を解析する。(d) CrPHOTの代わりにフリッパーゼを制御しうるヒト・キナーゼを取得すること、を計画した。2023年度は、計画(a)については多少遅れているものの、(d)の研究は概ね順調に進めることができ、さらに当初予定していなかった新たな情報を得ることにも成功したので、その状況を下記する。 (a) CrPHOTによって制御可能なフリッパーゼの取得。前年度に引き続き、CrPHOTによる制御検定を行う前に、結果が判別しやすい酵母キナーゼFpksによる検定を行うことにした。先ずは植物・フリッパーゼ遺伝子のクローニングをし、酵母に導入することでFpksによる制御を検定した。その結果、Fpksによって活性化されうるフリッパーゼの取得に成功した。さらにFpksによって制御されうるフリッパーゼのアミノ酸配列を同定することに成功し、その配列が酵母や哺乳類のフリッパーゼに保存されていることも明らかにした。 (d) ヒト・フリッパーゼキナーゼの取得。前年度に引き続き、Fpksキナーゼに類似したヒト・キナーゼを酵母fpks変異株に導入した。その結果、数種のキナーゼ候補の取得に成功した。さらに、これら候補因子のキナーゼ活性がフリッパーゼの活性に必要であることも明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究に引き続き、特に以下の3つの研究項目を優先させて研究を進めていく予定である。 (a) CrPHOTによって制御可能なフリッパーゼの取得。CrPHOTで制御可能な酵母の解析系を利用することで、前年度に得られたフリッパーゼについて光制御検定を行う。さらに、活性の有無を判別するための解析系を改良することで、より鮮明な結果を得ることを目指す。また、2023年度に得られたフリッパーゼ活性の制御に関与するアミノ酸配列の情報をもとに、様々な生物のフリッパーゼにおける活性制御への当該アミノ酸配列の関与を検討することで、キナーゼによるフリッパーゼ制御の普遍性とフリッパーゼ活性制御へのキナーゼの役割について明らかにする (b) 培養細胞での脂質取込活性の測定。上記(a)の解析を進めながら、ヒト培養細胞にCrPHOTや恒常的活性化型CrPHOTを導入し、培養細胞の光依存的な形態変化について観察する。特に、フリッパーゼが関わる細胞機能について注視する。さらに、CrPHOT依存的な脂質取込活性も解析することで、フリッパーゼ活性の光制御が培養細胞で機能するかについて検討する。 (d) ヒト・フリッパーゼキナーゼの取得。今年度解析にて得られたキナーゼについて、ヒト・フリッパーゼとの相互作用を中心に解析を行うことで、フリッパーゼキナーゼとして機能の有無について明らかにする。
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Causes of Carryover |
前年度の研究の遅れにより、当初予定していた研究打合せや学会発表及び、研究成果発表などが当該年度に行うことができなかった。さらに、脂質輸送体の活性制御解析を進めたところ、少なくとも植物の脂質輸送体においては制御に関わる分子内アミノ酸の同定に成功した。酵母や動物の脂質輸送体を含む生物に普遍的なメカニズムとの関連性をさらに追究したところ、予想以上に複雑なメカニズムであり、制御に関わるさらなるアミノ酸配列の同定にかなりの時間がかかった。このため、当該年度に行うはずの解析が遅延し、次年度に使用額が生じる結果となった。2024年度は、解析をさらに進めることで、遅れた分の研究計画を遂行し、成果発表を随時行っていく予定である。
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