2021 Fiscal Year Research-status Report
生物リズムと冬眠における周期の決定機構に関する数理・データ解析的アプローチ
Project/Area Number |
21K06105
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
黒澤 元 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 専任研究員 (90550525)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 生物リズム / 体内時計 / 冬眠 / 周期 / ネットワーク / 波形歪み / 温度補償性 / 一般化調和解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
体内時計と冬眠の周期の決定機構について、データ解析と数理モデルによる研究を行った。イオンチャネルやタンパク質の立体構造、遺伝子発現、クロマチン構造など様々なプロセスが生物リズムに関係しており複雑である。そこで周期と波形に関する数理的な解析と、より現実的なモデルを用いたシミュレーション、生物学で用いられたことのない手法によるデータ解析の三つを組み合わせた研究を行った。具体的には次の課題に取り組んだ。(1) 体内時計に関する新しい分子機構に関するシミュレーション、(2) 可積分モデルにおける周期の解析、 (3) 冬眠中体温リズムの時系列解析。 2017年にノーベル賞が与えられるなど、体内時計の分子機構はわかってきている。その中で60年以上未解決の問題が周期の温度補償性である。最近共同研究者が温度補償性に必須の因子として、カルシウム系のCaMKIIを同定した。そこで現実に近いモデルを用いることで、CaMKIIの働きを仮定したシミュレーションを行なって、観察されている周期と振幅の変調を説明した(Sci Adv 2021)。このように複雑モデルの研究を行う一方で、可積分モデルの解析を行った。具体的には最近我々が簡単なモデルで見出した、リズムのサイン波からのズレを表す「波形歪み」と周期の比例則(Biophys J 2019)の一般性を検討した。そして生態学で使われるロトカボルテラ方程式で、同様の規則が成り立つことを見出した(論文準備中)。さらに基本的メカニズムがほとんどわかっていない冬眠現象について、共同研究者が取得した体温データの時系列解析を行った。そして一般化調和解析法を用い、体温が数百日スケールで変動していることを見つけた(bioRxiv 2021)。以上のように、生物リズム周期の決定機構について数理モデルによる解析・シミュレーションとデータの時系列解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生物リズムと冬眠の周期に関するデータ解析と数理モデルによる解析を行った。具体的には次の課題に集中して取り組んだ。(1) 体内時計に関する新しい分子機構に関するシミュレーション、(2) 可積分モデルにおける周期の解析、 (3) 冬眠中体温リズムの時系列解析。60年以上未解決の問題である体内時計の温度補償性に関して、最近共同研究者のグループによってカルシウム系のCaMKIIが重要であることが明らかになっていた。そこで、CaMKIIに関する未発表の実験情報を詳細モデルに取り込んだシミュレーションを行なって、阻害剤による周期と振幅の実験結果を再現した。このようにしてシミュレーションによって現実のシステムの理解は進んだ(Sci Adv 2021)。比較的簡単なモデルを用いたアプローチとしては、生態学のロトカボルテラ方程式を用いた解析を進めた。そして最近私たちがファンデアポル方程式と体内時計モデルにおいて見出した、リズムのサイン波からのズレを表す「波形歪み」と周期の比例則(Biophys J 2019)が、ロトカボルテラ方程式でも成り立つことを確かめた。波形歪みと周期の比例則が体内時計モデル以外のシステムでも成り立っていたのは予想外であった。今後比例則の一般性を考えていくためには神経活動リズムやErKリズムなど他の数理モデルも検討する必要がある。本年度は数理モデルの研究と同時に、実験データを用いた解析も進めた。そしてノイズを含んだ時系列に対して有効な一般化調和解析を用いて、冬眠中の体温時系列が数百日スケールで変化することや、比較的簡単な数理モデルでよく再現できることを見つけた(bioRxiv 2021)。以上のように、生物リズムと冬眠に関するデータ解析と数理モデルによる研究はおおむね順調に進んでいると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
タンパク質の立体構造、遺伝子発現、クロマチン構造などが複雑に関係する生物リズムの周期を解明するため、データ解析と現実に近いシミュレーション、簡単な数理モデルの解析を組み合わせて行っていく。特に冬眠については、共同研究者が計測した体温データを用いて長時間スケールのリズムの変調を調べることにより冬眠中の生体内プロセスを理解する。具体的には次の課題に取り組む。(1) 様々な分野の振動モデルにおける周期の数理的解明、(2) 生物リズムの波形と周期に関するデータ解析、(3) 振幅・波形情報を用いた分子機構の数理予測、(4) 冬眠中ハムスターの体温データに対する時系列解析と数理モデル。最近の私たちの研究で、体内時計を含むいくつかの可積分モデルにおいて、リズムのサイン波からのズレを表す「波形歪み」と周期の比例則が成り立つことを見出した(Biophys J 2019; 投稿準備中)。すなわち反応が早くなるにも関わらず周期がのびる時には、波形は歪む傾向がある。今後は現実に近い複雑なモデルに対してもシミュレーションによって詳細に調べる。これまでの本研究で、工学で使われる一般化調和解析法を用い、体内時計や冬眠の実験データから周期や波形の情報を抽出することに成功している(J Theor Biol 2020, birRxiv 2021)。一方でトレンド成分が大きく変化する生物時系列に対して、宇宙物理学で使われるヒルベルト・ファン変換法も有効であることを見出している。そこで一般化調和解析法とヒルベルト・ファン変換法を組み合わせつつ、薬剤投与など様々な条件における体内時計や冬眠、Erkの系のダイナミクスの変調を調べる。そして波形歪みと周期の比例則の一般性、ネットワーク内の反応のトポロジーとリズム変調の関係などについて幅広い数理解析とデータ解析を行なって、生物リズムの周期の背後にあるメカニズムにせまる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響で、現地参加を予定していた学会がオンライン開催となり、予定より旅費の支出が少なかった。2022年度は学会のオンサイトの開催が増えており、積極的に参加して研究成果の発表を行いたい。
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Research Products
(3 results)