2022 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質構造に基づいたアブラナ科植物の自家不和合性を制御する分子の創出
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21K06110
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森脇 由隆 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70751303)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村瀬 浩司 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (50467693)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 計算科学 / 蛋白質科学 / 蛋白質設計 / アブラナ科植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的である複数のハプロタイプ由来SRK分子に結合しうるSP11の創出は想定以上に進展している。2021年から22年にかけてタンパク質主鎖構造を固定した上で、その側鎖をデザインする手法がディープラーニングによって飛躍的に高まったことで、求められるSP11分子の骨格を設計していれば、そのアミノ酸をデザインするという手法に大きな道がひらけた。本研究では、新規SP11分子骨格をまずRosettaでデザインした。これは本来のSP11分子が60-70アミノ酸の機能ドメイン(defensin-likeドメイン)を持っているのに比べると、150アミノ酸と比較的大きなアミノ酸から構成されるものであるが、ジスルフィド結合をなくすことができたということで新しい。そしてSRKとの結合活性に必要だと思われる箇所については、活性アミノ酸を固定した状態のProteinMPNNを用いて側鎖をデザインすることができる。その後、AlphaFold, ColabFoldを用いてそのデザインされた配列から構造を予測したところ、高い信頼性で構造が予測された。これより、現実にそのデザインした新規SP11を大腸菌発現系などで発現できる可能性が高いと考えられる。 また、天然に100種類以上存在するとされるアブラナ科植物のSP11の構造多様性について、その立体構造を予測する手法で大きな進展が見られた。近年AlphaFoldによって多くのタンパク質構造が精度良く予測されるできるようになったが、SP11についてはこれを単純に適用するだけではうまくいかなかった。しかし、我々はこの改善手法について研究成果を出し、現在これについての論文を投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この2年は新規SP11分子のデザインを上記のように検討している一方で、アブラナ科に属する様々な属の花(ダイコン・セイヨウダイコン・カブ・ブロッコリー・ナタネ・セイヨウアブラナなど)が持つ合計100通り以上のハプロタイプのSRK-SP11間の相互作用の予測を、2021年に発表されたAlphaFold2を改変したColabFoldを用いて予測した。このとき、通常取得されるMSAを使うのではなく、SP11分子のジスルフィド結合を揃えた特殊なMSAを用意した。このために、過去20年にわたって実験的にSRKとSP11のS遺伝子座がともに決定されている98対のアミノ酸配列ペアの情報を論文から収集した。そのアミノ酸配列はGenBankおよびUniprotから取得した。これにより、現在AlphaFold Protein Structure Database( https://alphafold.ebi.ac.uk/ )において公開されているSP11分子のよりも高い信頼度を持つ予測モデルを得ることに成功した。さらにこれとSRK-SP11分子のペア配列を用いた複合体予測を行うことで、98対中80以上の分子において信頼できる複合体予測構造を得ることにも成功した。以上の手法により、SP11の構造多型性によって予測することが困難とされていたSRK, SP11間の網羅的な複合体構造予測を行うことができた。現在は、これらの構造情報を用いた新規SP11分子の創出も検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
詳細なSRK, SP11複合体構造情報が網羅的に利用可能になったことから、これらの情報を加味して複数のSRKに結合可能なSP11分子の設計が大きく前進する事が考えられる。単純なところで言えば、これまでアブラナ科のB. rapa属だけで検討していたが、B. oleracea属においてB. rapaのいくつかのハプロタイプ由来SRKと相互作用認識を同じくするものが5通り存在していることが過去の論文から判明していたが、B. oleracea属のSRK, SP11の複合体予測も可能になったことから、一残基レベルでの改変の影響を予見することができるようになった。さらには、当該研究の反対方向として、同じハプロタイプ由来のSRK-SP11複合体の結合を阻害するような分子の設計も近年の計算手法によって可能になりはじめたのではないかと考えている。各ハプロタイプのSRKはSP11分子との結合界面において集中的に変異を発生させることで、同族のSP11のみを受け入れるための特異性を創出しているが、それ以外の部分はよく保存されている。もし、SRKの保存されている領域に強く結合しながらSP11結合界面にまで影響する大きな人工タンパク質分子が設計できれば、SRKとSP11の相互作用を合理的に阻害することができるかもしれない。これが可能になれば、SRK, SP11分子がもたらす自家不和合性によって困難となっているホモ接合性のハプロタイプの保存を容易にすることができ、最終的にはアブラナ科野菜の品種改良の易化につながるかも知れないと考える。
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Causes of Carryover |
所属研究室で共有している計算資源が想定よりも十分に確保されたため、当該年度における計算機の購入を予定より減らすことができたためが1つ、また、研究分野における計算機を用いた蛋白質設計手法の進化によって、検討に必要な時間及び計算資源の使用が当初の予定より抑えられたためである。 次年度使用額はこの研究計画の最終年度において、実験的な検証に用いるために資金を転用することを予定している。
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Research Products
(2 results)