2022 Fiscal Year Research-status Report
非酸素発生型光合成細菌のPS Iタイプ反応中心の分子構築と反応機構の全容解明
Project/Area Number |
21K06112
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大岡 宏造 大阪大学, 全学教育推進機構, 教授 (30201966)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 光合成 / 反応中心 / エネルギー移動 / 電荷分離 / 超高速分光 / ヘリオバクテリア / 緑色イオウ細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.超高速分光による初期電荷分離過程の解析 ヘリオバクテリアは絶対嫌気性の光合成細菌である。光合成反応中心は高等植物やシアノバクテリアの光化学系1と同じタイプ1反応中心であり、ホモダイマー構造をとることから始原型RCと考えられている。本研究では始原型光合成反応におけるエネルギー変換過程を解明することを目的とし、色素間励起エネルギー移動および初期電荷分離形成までの反応過程を追跡している。今年度は、低温(140 K)での測定を行ったことで、過去に行った室温での測定結果と比較し新たな知見を得ることができた。室温測定において816 nmに観測されていたBChl gの基底状態ブリーチの減衰は、長波長アンテナ色素red-BChl gまたは電子伝達成分の[P-Acc]の励起カップリングに由来する2つの可能性を考えていた。しかし低温測定においては、明瞭に電荷分離の形成を示すBChl g(PまたはAcc)の信号が786nmに観測され、816 nmの減衰成分はred-BChl gに帰属することができた。また低温ではいずれの励起波長(490, 770, 820 nm)においても、red-BChl gを経由して電荷分離が生じていることが明らかとなった。室温において電荷分離したPまたはAccの基底状態ブリーチが観測されなかった原因は、同じ波長に別のアンテナBChl gの励起緩和が重なり信号が相殺されたためと考えられる。このことから、室温では電荷分離に向かうエネルギー移動において低温とは異なる素過程が含まれることが示唆された。 2.緑色イオウ細菌由来FA/FBタンパクの発現系構築 緑色イオウ細菌由来FA/FBタンパクをコードする遺伝子をpETベクターに組み込み、大腸菌内での大量発現を試みた。可溶性ドメインのみをコードするコンストラクトを構築したにも関わらず、大腸菌内では不溶性となってしまった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
100フェムト秒ポンプ・プローブ分光法による超高速分光を用いることにより、ヘリオバクテリア反応中心の色素間励起エネルギー移動および初期電荷分離形成までの反応過程を詳細に追跡することができ、始原型光合成反応におけるエネルギー変換過程の特性について新規な知見が蓄積されつつある。昨年度はカロテノイドの近くに長波長吸収帯を構成するBmd812とBmd787のBChl g集団が存在することを明らかにし,P800にエネルギーを渡すアンテナ色素として機能していることを示した。今年度は816 nmに吸収を示す長波長アンテナ色素red-BChl gに励起エネルギーが一旦移動した後、初期電荷分離過程が始まることを明らかにすることができた。緑色イオウ細菌由来FA/FBタンパクの発現系構築には失敗したが、可溶性ドメインに存在するクラスター形成に不要なシステイン残基を他の残基に置換すれば上手く発現するのではないかと考えている。このように本研究目的である「光合成細菌のもつタイプ1反応中心の分子構築と反応機構の全容解明」に向けて、全体的に良好な研究成果が得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
ヘリオバクテリア反応中心の超高速分光によるエネルギー移動および電子移動過程の解析は非常に順調に進んでいる。カロテノイドからアンテナBChl gへの高効率の励起エネルギー移動に関しては、今年度にデータをまとめて投稿予定であったが未投稿のままである。その理由は、新たに低温(140 K)での測定を行ったことで、過去に行った室温での測定結果と比較することが必要となり、励起エネルギー移動から初期電荷分離までの過程を詳細に検討したためである。現在、長波長アンテナ色素red-BChl gの存在が明らかとなり、カロテノイド周辺の色素集団の存在状態とエネルギー移動に関する論文と、uphillのエネルギー移動から初期電荷分離に至る過程に関する論文の2報準備することを考えている。一方、緑色イオウ細菌由来FA/FBタンパクをコードする遺伝子については、ヘリオバクテリア内で発現することを計画している。ヘリオバクテリアが本来持っているFA/FBタンパクは水溶性であるが、緑色イオウ細菌由来FA/FBタンパクは疎水性であり、反応中心と結合する可能性がある。また令和5年度から新たに学生(修士課程1年)が参画するので、計画通りに進んでいなかったフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によるキノール生成の検出の試みについて取り組む予定をしている。
|
Causes of Carryover |
(理由)令和4年度前半に米国アリゾナ州立大学・Kevin教授のもとでヘリオバクテリアの形質転換系を学ぶ予定であったが、新型コロナ感染症拡大の懸念もあり、実際に渡米できたのは年度末の3月中旬であった。そのため形質転換系の確立に必要な消耗品を購入する必要もなく、標品の大量調製に必要な界面活性剤や精製用Ni樹脂の購入もなかった。その代わり超高速分光測定のデータ解析に専念することにした。またspinning cellの設計図取り寄せに時間を要し、令和5年度に行うことに変更した。これらの理由により、令和4年度の研究成果そのものは良好であったが、令和5年度への使用が生じた。 (今後の使用計画)令和5年度の研究遂行に必要とされる試薬類・消耗品類の購入費として使用予定である。また密閉型のspinning cellを製作する費用として使用する。
|