2022 Fiscal Year Research-status Report
レーザー照射によるアミロイド線維の破壊機構を分子動力学シミュレーションで解明する
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21K06118
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Research Institution | Center for Novel Science Initatives, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
奥村 久士 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 准教授 (80360337)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / アミロイド線維 / ポリアラニン / 赤外線レーザー |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質は本来正しく折りたたみ、生命にとって必要不可欠な機能を果たす。しかし、時に凝集し、そのタンパク質凝集体が病気を引き起こすことがある。これまでに約40種類の神経変性疾患がタンパク質凝集体により引き起こされることが分かっている。これらのタンパク質凝集体に赤外自由電子レーザーを照射して破壊し、新しい治療法開発につなげようという試みが行われている。しかし、タンパク質凝集体が自由電子レーザーにより破壊される機構は分かっていなかった。昨年度、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集体について赤外自由電子レーザーを照射する過程を調べる分子動力学シミュレーションを行い、その破壊過程を原子レベルで初めて解明した。 今年度はポリアラニン病の原因物質であるポリアラニン凝集体に対して自由電子レーザーを照射する分子動力学シミュレーションを実行した。具体的にはまず、ポリアラニンのアミロイド線維中の分子間βシートを形成しているC=O結合の伸縮振動スペクトルを計算し、共鳴周波数を特定した。次にその振動数で振動する電場をかける非平衡分子動力学シミュレーションを行った。実験と同じように一定時間間隔をあけて次々とパルス状の電場をかけた。この系について分子間βシート構造が破壊される過程を観察した。その結果、(1)ポリアラニンの凝集体もAβペプチド凝集体と同じように自由電子レーザーにより破壊されること、(2) ポリアラニンの凝集体のほうがAβペプチド凝集体よりも破壊されにくいことが初めて明らかになった。今後はなぜポリアラニン凝集体はAβペプチド凝集体よりもレーザーで破壊されにくいのか、その理由の解明に取り組む。これまでAβペプチド凝集体の研究で周辺の水分子が凝集体の破壊に重要な働きを担っていることが分かったので、水分子とタンパク質凝集体の相互作用に注目して解析を続ける。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、Aβペプチドのアミロイド線維を赤外線レーザー照射により破壊する過程を解明し、今年度はポリアラニン凝集体の破壊過程の解明に取り組むことができた。以上の理由により、計画通り順調に研究が進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
タンパク質凝集体はアルツハイマー病やポリアラニン病以外にもおよそ40種類の神経変性疾患の原因となっている。どのようなタンパク質凝集体が赤外自由電子レーザーで破壊されやすく、どのようなタンパク質凝集体は破壊されにくいのか明らかにすることは医療への応用として有意義である。そこで、今回破壊されにくいことが明らかになったポリアラニン凝集体について破壊されにくい理由を解明し、赤外自由電子レーザーで破壊されやすいタンパク質凝集体と破壊されにくいタンパク質凝集体を事前に判別する経験則を見出したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大により当初予定していた学会出張ができなくなったため、次年度使用額が生じた。現在、対面での学会が海外でも再開されつつあるので、ヨーロッパ生物物理学会などへの出張を行うために使用する計画である。
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