2021 Fiscal Year Research-status Report
ゲノムを創り、細胞に導入する方法;合成ゲノム活用に向けて
Project/Area Number |
21K06134
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 真也 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (10399694)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ゲノム合成 / 長鎖DNA / 溶菌法 / 接合伝達 / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度(令和3年度)は、ゲノム合成に向けたベクターの改良を行った。本研究では出芽酵母と枯草菌でそれぞれの構築法を比較するため、まず既存のYAC-BACシャトルベクター(YAC; Yeast artificial chromosome, BAC; Bacterial artificial chromosome)に、枯草菌で複製できるプラスミド(pGETS109)の必要な部分をつなぎ合わせて、出芽酵母―大腸菌―枯草菌で複製可能な3者間シャトルベクターを構築した。得られた3者間シャトルベクターを用いてまず出芽酵母でのGap Repair Cloning(GRC)法を実施し、使用できることを確認した。続いて枯草菌でのGRC法は、当研究室のオリジナルであり、これまでにGFP遺伝子を有する17kbのプラスミドを4分割したコンティグDNAを用いて条件検討を行ってきた。以前の研究で枯草菌の通常の自然形質転換法ではGRC法の効率が悪い事が判明していたが、プロトプラスト法を用いる事で、4分割したコンティグを連結させる事に成功した。さらに枯草菌ゲノム中の組み換え酵素をコードするRecA遺伝子の発現プロモーター配列を野生型からキシロース誘導型に変換する事で効率を大幅に上げることに成功し、ヒトゲノムのMYC領域(約10 kb;4コンティグDNA)も枯草菌で構築する事ができるようになった。現在、ラムダファージゲノム(48kb)などについても出芽酵母または枯草菌でどの程度の効率で構築できるか比較解析を実施している。一方、次年度以降の接合伝達実験を見据えて、広域宿主に伝達可能な大腸菌の接合伝達プラスミドpUB307 (55 kb)から接合伝達に必要なoriT領域の探索も実施し、必要なoriT配列(6.3kb)を見つけ出す事ができた。この領域についても上記シャトルベクターへの導入を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度(令和3年度)は、ゲノム合成に向けたベクターの改良を実施し、出芽酵母―大腸菌―枯草菌で複製可能な3者間シャトルベクターを構築できた。この結果、出芽酵母および枯草菌において同一のシャトルベクターを用いてGRC法を実施することができ、出芽酵母と枯草菌それぞれでゲノム(長鎖DNA)構築の効率を比較解析する事ができる。既にヒトゲノムの領域(10 kb)やラムダファージゲノム(48kb)のコンティグDNA断片などを用いて長鎖DNAの構築を実施し、効率の比較解析を開始している。また枯草菌でのGRC法改良のために、枯草菌ゲノム中の相同組み換え酵素RecAをコードする遺伝子の発現プロモーターを野生型からキシロース誘導型に置き換える研究も実施した。この結果、枯草菌でのGRC法の効率を10倍程度上げることに成功し、ヒトゲノムのMYC領域(約10 kb;4コンティグDNA)も枯草菌で構築する事ができるようになった。キシロース誘導型プロモーターは、誘導なしでは殆ど発現が生じないため、想定外の組み換えも抑止できると期待され、従来の出芽酵母のGRC法に比べて枯草菌を用いるメリットの一つとして今後有効性を検証していく必要がある。今年度はさらに接合伝達のために必要なoriT領域(6.3 KB)もpUB307から特定する事ができた。これは上記3者間シャトルベクターへ導入する事で、今後接合伝達を活用する上でさらなる展開が期待できる。以上のことから今年度は当初予定していた通りのペースで本計画が進行しており、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度(令和3年度)は、当初予定していた研究項目を実施でき、ゲノム(長鎖DNA)合成に向けた準備が整った。この結果を受けて次年度(令和4年度)は当初の予定通り出芽酵母、枯草菌それぞれでGap Repair Cloning(GRC)法を実施し、効率などの比較検討を実施する。その過程でそれぞれの改良点などを考察し、簡便で効率の良いゲノム(長鎖DNA)合成技術を探索する。これに伴い、ベクターのさらなる改良も必要に応じで引き続き実施する。さらに出芽酵母または枯草菌のGRC法で構築したDNAを効率よく、他の細胞へ導入する方法として「溶菌法」、「接合伝達法」についての研究も実施する。「溶菌法」ではこれまでに大腸菌から枯草菌、出芽酵母、枯草菌から大腸菌、出芽酵母などへDNAを精製せずに導入できることを実証してきた。本研究ではまず枯草菌のGRC法で構築したDNAを大腸菌や出芽酵母へ導入する一連の操作性を確認しつつ、新たな試みとして、出芽酵母を溶菌させて他の宿主(例えば、大腸菌や枯草菌)にプラスミドDNAを移動できるか検討する。使用するDNAとしては前年度で構築した大腸菌-枯草菌-出芽酵母で複製できる3者間シャトルベクターなど。条件を変える事で効率を上げられるかも検討する。さらに「接合伝達法」に関しては、これまでに大腸菌から広域宿主への接合伝達プラスミドpUB307などが知られているが、枯草菌からの広域宿主への接合伝達の知見はない。本研究では、枯草菌の接合伝達プラスミドpLS20の改良、または接合伝達に必要なタイプIVチャネルをコードする遺伝子群を用いる事で枯草菌以外にも接合伝達可能か検討するとともに、上記pUB307が枯草菌で使用できないかの検討も行う。さらに変異株で大腸菌のプロモーター配列も機能すると言われている特殊な枯草菌を活用できるか検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)当該年度(令和3年度)における研究の進展具合は極めて順調で、当初の計画目標を充分にクリアすることができている。次年度(令和4年度)使用額が生じた理由としては、消耗品費に関して実験資材等の再利用等により効率的に研究費を運用できた結果、コストを抑えることができた。 (使用計画)次年度(令和4年度)は、初年度と同様、培養に必要な培養試薬類、培養資材類、またPCRや各種プラスミドDNAの構築や精製などのための遺伝子工学用試薬類、遺伝子工学資材類、プライマー合成費などの消耗品費が必要と予想される。また情報収集、成果報告(学会発表、論文発表など)のための旅費、謝金(論文校閲料を含む)などが必要と予想される。次年度(令和4年度)は繰越金を含め、これらの予算で必要充分であると見込まれる。
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Research Products
(2 results)