2022 Fiscal Year Research-status Report
ゲノムを創り、細胞に導入する方法;合成ゲノム活用に向けて
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21K06134
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 真也 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (10399694)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ゲノム合成 / 長鎖DNA / 溶菌法 / 接合伝達 / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、昨年度までの成果を受けて出芽酵母と枯草菌それぞれを用いたGap Repair Cloning (GRC) 法を実施した。ヒトゲノムやラムダファージゲノムなどを用いてゲノム構築を実践した結果、いくつか問題点を見出すことができた。まず出芽酵母を用いた場合は、コピー数が少ないので出芽酵母からの直接的な精製が困難なため、大量精製のために大腸菌に導入し直して精製するのが一般的であるが、いろいろなゲノム配列の構築を進めていくうちに、大腸菌での大量調整が困難な配列があることが判明した。これは酵母では問題ないものの、大腸菌細胞中では、遺伝子が発現してしまい、大腸菌の生育を阻害してしまうためではないかと考えられる。その結果著しい大腸菌の生育遅延または変異が生じてしまう。さらに出芽酵母の高い組換え効率の影響で酵母自体の細胞中でも継体培養を続けるうちに、変異及び欠失などが起こることも判明した。これにより酵母のGRC法直後のコロニーPCRでは、確認できていたゲノム配列を安定に維持し、精製できない場合が見られた。一方枯草菌でのGRC法では、最大7断片、サイズとしては40kbまでのゲノム構築が可能になってきたが、それ以上のサイズについては今のところ成功に至ってない。今年度は、これらの問題点が明らかとなったことで今後打開策に向けた研究も検討した。さらに細胞導入法の開発に関しては、枯草菌を溶菌して出芽酵母だけでなく、溶菌液を用いてエレクトロポレーションによりピキア酵母へも導入できることを実証した。さらに出芽酵母を溶菌して枯草菌へ導入できるかなどの実験も試みた。接合伝達に関しては、広域宿主に接合伝達可能な大腸菌用の接合伝達プラスミドpUB307を用いて、大腸菌から出芽酵母、ピキア酵母及び水素酸化細菌への接合伝達が可能であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の計画通り、1)ベクターの改良・ゲノム合成において、様々なサイズ及び配列のゲノム構築を実施した。その結果、出芽酵母、枯草菌それぞれのGRC法においていくつかの問題点を見出すことができた。出芽酵母の場合、世界的に用いられており実績はあるものの、全ての配列で万能ではないことが判明した。出芽酵母は相同組換え効率が高い故に、組換えが生じやすい配列では永続的に安定に維持できないこと。また大腸菌の生育を阻害する配列の場合では、大腸菌を用いた大量調整が不可能であることが明らかとなり当初懸念していた想定通りの結果が得られた。一方枯草菌の場合では、相同組換え酵素の遺伝子を必要な時だけ発現誘導する方式なので、安定に維持でき、大量調整も可能であることを実証できた。しかし枯草菌のGRC法は独自技術であるため、操作性を改良しながら運用していかねばならず、これまでに最大7断片、サイズとしても40kbのゲノム構築までの実施例しか得られていない。今後さらなる改良が必要であるが、これらの点も含めてそれぞれの問題点を抽出することが出来たことから、当初の計画通りに進行している。 2)溶菌法を用いた細胞導入法に関しては、モデル実験として、枯草菌から出芽酵母及びピキア酵母への溶菌法を用いた導入実験に成功しており、サイズも50 kb以上の環状DNAの導入が確認され、想定通りの結果を得ることが出来たものの、出芽酵母を溶菌して枯草菌へ導入する方法においては、今のところ成功しておらず、今後の展開を検討中である。 3)接合伝達を用いた細胞導入法に関しては、広域宿主に接合伝達可能な大腸菌用の接合伝達プラスミドpUB307を用いて、液体培養での大腸菌から出芽酵母、大腸菌からピキア酵母及び水素酸化細菌への接合伝達が可能であることを確認できた。以上のことから当初の計画通りおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は出芽酵母と枯草菌それぞれでGRC法で判明した問題点の解決を目指す。出芽酵母のGRC法では、相同組換えが起こりやすい配列や、大腸菌の生育を阻害する配列は不向きである一方、枯草菌の場合では、誘導型組換え酵素を用いることと、大腸菌よりもプロモーター配列が厳格なためか、これらの配列を枯草菌で安定に維持し、大量調整できることが確認できた。そこで出芽酵母のGRC法で得られたゲノムDNAは速やかに大腸菌ではなく、枯草菌に導入して大量調整を行うことで問題点を解決できるものと見込まれる。これに伴い酵母からの精製法に関して、細胞壁溶解酵素の反応条件の検討、遠心スピードを調整することでミトコンドリアを除去し、環状DNAのみを優先的に精製する条件の検討などを行う。また枯草菌でのGRC法では、これまでに最大7断片、サイズも40kbのゲノム構築までの実施例しか得られていないのでGRC法の効率をさらに向上させるために、相同組換え酵素の発現誘導(キシロース添加のタイミングや濃度)などを再検討する。枯草菌細胞への導入法であるプロトプラスト法に関しても培養時間、再生培地の組成、最終的なプロトプラストコンピテントセルの濃縮などをの検討を実施する。さらに枯草菌ゲノム中での構築法も検討する。溶菌法を用いた細胞導入法に関しては、酵母をドナーとして枯草菌に導入できないか再検討するとともに、酵母や枯草菌をドナーとして培養細胞への導入についても検討を開始する。同様に接合伝達を用いた細胞導入法については、大腸菌での広域宿主接合伝達プラスミドpUB307を用いて培養細胞に導入できないか検討を開始するとともに枯草菌の接合伝達プラスミドpLS20に関して、広域宿主化を実現するために恒常的な接合伝達条件を検討する。以上の方策を実施することで当初の計画を実現できるものと見込まれる。
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Causes of Carryover |
当該年度(2022年度)における研究の進展は概ね順調で、当初の計画目標をほぼクリアすることができた。次年度(2023年度)使用額が生じた理由としては、感染防止を考慮して極力出張を抑えたことや、消耗品費も実験資材等の再利用等により効率的に研究費を運用できた結果、コストを抑えることができた。 (使用計画)次年度(2023年度)は、これまでと同様、培養に必要な培養試薬類、培養資材類、またPCRや各種プラスミドDNAの構築や精製などのための遺伝子工学用試薬類、遺伝子工学資材類、プライマー合成費などの消耗品費が必要と予想される。また情報収集、成果報告(学会発表、論文発表など)のための旅費、謝金(論文校閲料を含む)などが必要と予想される。次年度(2023年度)は繰越金を含め、これらの予算で必要充分であると見込まれる。
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Research Products
(7 results)