2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of respiratory diseases through analyses on the beating of tracheal cilia and resulting fluid flow
Project/Area Number |
21K06180
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
政池 知子 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 准教授 (60406882)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池上 浩司 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (20399687)
中江 進 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (60450409)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 気管繊毛運動 / 呼吸器疾患 / 喘息 |
Outline of Annual Research Achievements |
気管内腔に喘息の原因物質キチンが侵入したときの細胞表面への堆積と、それによる繊毛運動の変化がもたらす粘液流形成およびキチン排出能への影響を調べ、喘息をはじめとする呼吸器疾患の病態解明につなげるのが本研究の目的である。 まずマウスを解剖して気管を摘出後縦割りにし、上面が開口した向きで腹側の半円筒を、溶液を含むシャーレの底に設置した。このシャーレに蛍光ビーズを添加して動きを観察したところ、0.75%以下のメチルセルロース存在下の粘度がある溶液においては、底面の繊毛先端から30μm以上の高さで層状流が観察された。また、粘性が高いほど底面からの高さに関わらずビーズの輸送速度が一定に近づき安定化することがわかった。一方、底面付近では変動流がみとめられた。このことから、異物排出における気管上皮粘液の適度な粘性の重要性があらためて定量化されたといえる。 次に、蛍光標識した長軸40μm以下の喘息原因物質キチンを同実験系に添加し、輸送能を調べた。その結果、直径1μmの蛍光ビーズよりも明らかに沈降しやすい性質が見受けられた。一方で、溶液の粘性を増加させることでキチンの沈降速度を低下させた場合には、輸送速度が低下するという影響が見受けられたため、キチンを効率的に気管から排出されるためには適度な粘度が要求されると推測される。 以上のように、気管繊毛運動による液流形成をin vitroにおいて半円筒状気管で再現し、流体力学的性質を定量することができた。 そのほか、喘息発作治療薬による繊毛運動と液流形成の変化や、細胞内シグナル伝達による3次元繊毛運動の変化をin vitroで再現する実験系の構築を試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、半円筒状に調製した気管を用い、異物モデルとしての球形ビーズと、喘息アジュバント物質キチン微粒子について、輸送速度の定量を行うことができた。粘液繊毛輸送機能の定量的な計測が正立蛍光顕微鏡により水浸の対物レンズを用いた簡便な実験系で実現可能であることを実証した点は、成果として挙げられる。 研究実績の概要でも述べた通り、繊毛運動により形成される液流が、繊毛先端からの高さと溶液の粘度という2つのパラメーターによって特徴づけられることを明確に示したことは特筆に値すると考える。液流形成能の計測は先行研究においても多様な手法により実現していると見受けられるが、光学顕微鏡が比較的不得意とする高さ方向の計測と組み合わせることができた点は本研究の特色であると言える。 一方で、半円筒状気管をシャーレに伏せて設置し、気管を模倣したトンネルを作り、倒立顕微鏡で液流を計測する実験も行った。この方法は重力による上皮への微粒子の堆積とその効果を見積もる目的には適していないものの、側面に開口部がないため液流が安定し、定量性が改善するという点が特徴である。この実験系により、喘息発作治療薬により液流が改善することがわかった。さらに、同実験系において単一繊毛にプローブビーズを結合して運動計測を行ったところ、繊毛運動自体にも変化があることが示唆された。以上、半円筒状に調製した気管を用いた本研究はおおむね計画通り順調に進んでいると自己評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の挑戦的なテーマとしては、単一繊毛軸糸に対して細胞内シグナル伝達による効果を再現する試みである。先行研究において、ウシの気管繊毛では運動様式の決定に関与するタンパク質が軸糸調製後も微小管に結合しており、そのタンパク質に作用する因子を添加すれば運動が変化するとされている。この実験系をマウス繊毛軸糸に応用し、細胞内シグナル伝達をin vitroで再現したときの軸糸運動を3次元観察するという試みを行っている。主要なシグナル伝達経路を活性化させる条件で運動観察を行ったところ、3次元運動パラメーターに変化が認められた。しかし、シグナル伝達にはいくつかのタンパクと物質が関与しており、その経路が有効にはたらいて運動に変化があったのかどうかについては慎重に検証する必要がある。また、経路の枝分かれ、途中からの合流など、一意的に現象を理解するにはまだ複雑な点も多い。In vitroにおいてin vivoの反応を検討することにはこのようなハードルがあることを再認識した。そのため、シグナル伝達の阻害剤の添加による経路の検証や、伝達の途中に関与するタンパク質の存在と機能を実証する実験を行っていく計画を立てている。 これらの研究の過程で、完全にin vitroの環境でのシグナル伝達の再現に困難がある場合には、細胞の形状は残したまま透過性のみを向上させたセミインタクト細胞を繊毛上皮細胞で確立し、細胞内の構造をできる限り維持した状態で同実験を行うことを目指している。そのためにストレプトリジンOによる細胞への透過性付与処理の条件も検討していきたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の蔓延が長引き、2021年度は対面での共同研究が困難であったことが理由として挙げられる。しかしながら、遠隔オンライン会議システムにて研究発表会をリアルタイムに行い、半円筒に調製した気管による液流形成の特徴について議論を行ったことや、パパイン(プロテアーゼ)による気管上皮の炎症誘導条件についてメールにてやりとりを行い、本研究に活かすことができた。 2022年度は、気管上皮の炎症がより顕著で繊毛が抜けて液流形成が困難になる条件を見出し、そのときの繊毛運動や液流の測定を行うための実験に助成金を使用したい。
|
Research Products
(1 results)