2022 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of respiratory diseases through analyses on the beating of tracheal cilia and resulting fluid flow
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21K06180
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
政池 知子 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 准教授 (60406882)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池上 浩司 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (20399687)
中江 進 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (60450409)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 気管繊毛運動 / 呼吸器疾患 / 喘息 / セミインタクト細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
気管内腔にアレルゲンが侵入したときの細胞表面への接触と、それによる繊毛運動の変化がもたらす粘液流形成および異物排出能への影響を調べ、呼吸器疾患の病態解明につなげるのが本研究の目的である。 2022年度は、生体内を模倣する条件下の液流測定と繊毛運動観察を目指し、前年度に引き続き、摘出した気管を対象とした実験を行った。本年度の主な成果としては、気管内腔における粘液層と繊毛周囲層の二層構造を再現したin vitroの系を構築したことと、セミインタクト細胞を用いた繊毛運動評価系の条件検討を行ったことが挙げられる。 第一の成果について、生体内では気管上皮は粘性の低い繊毛周囲層に覆われており、繊毛の先端はその上に重なる高粘性の粘液層にわずかに先端を突き刺すことで、粘液層を動かすことが知られている。生体内での繊毛の運動特性を明らかにするためには、この二層構造をモデル化する実験系の構築が必須である。そこで、メチルセルロースを粘液層に見立て、繊毛周囲層を模倣した緩衝液の上に重ねる実験系を構築した。この実験系により、これら2つの層における液流をそれぞれ評価することが可能となった。 第二の成果については、気管上皮組織から上皮細胞層を剥離し、その後細胞膜に膜タンパク質で細孔形成を施した後、繊毛運動に寄与する成分を外液から導入する実験をすすめた。一部の細胞については溶液交換により繊毛運動の周波数が変化したことから、セミインタクト細胞となっていることが示唆された。これらの細胞についてはヨウ化プロピジウムやFura2での蛍光染色により、細孔形成の度合を見積もることができることが明らかになった。 その他に、生きている個体にプロテアーゼ投与を行って上皮の電子顕微鏡像により繊毛脱離を評価する実験や、繊毛軸糸を対象とした運動評価も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生体内では、粘液層と上皮組織の間に繊毛間液層(PCL)と呼ばれる粘性の低い層が存在する。繊毛は低粘性抵抗のPCL中で運動し、繊毛先端部分を粘液層に突き刺して粘液を牽引することが知られている。これをin vitroで模倣するため、マウスから摘出した気管をシート状に切り開き、組織接着剤で気管外膜側を上面カバーガラス上のろ紙に固定し、0.2%の蛍光ビーズを含むDMEM培地をその繊毛の上に滴下して疑似PCLを作製した。一方、疑似粘液として3%メチルセルロースを含む0.1%(v/v)蛍光ビーズを加えてガラスボトムディッシュ上に用意した。そこに、繊毛側を下に向けた前述のカバーガラスを押し付けた。この試料のビーズの流れを観察したところ、ビーズの密度差を手掛かりに、疑似PCLと粘液層の境界面を見つけることができた。ここでは繊毛の往復運動に影響され進行方向に対して前後に往復する特有の流れが形成されることがわかった。 一方、気管上皮細胞をセミインタクト化し、繊毛運動の評価も行った。気管上皮細胞をプロテアーゼの一種であるディスパーゼで剥離した後、ストレプトリジンOを添加し、細胞膜に透過性チャネルの細孔を形成させた。その後ヨウ化プロピジウムとFura2で染色し細胞膜の透過性獲得を明確に評価することができた。外液ATPによる運動周波数の変化がみとめられたことと、ADPによる振幅の増大が検出されたことから、従来軸糸を用いて応答を評価してきた実験をこのセミインタクト細胞に応用する道が拓けたと考えられる。 さらに、本年度は生きた個体にパパインを投与し、電子顕微鏡観察による気管繊毛の脱離評価を行う実験も行い、画像から繊毛密度を計測する方法を検討することができた。 以上、本研究はおおむね順調に進んでいると自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は気管上皮の上にあるPCL層と粘液層の二層をin vitroで再現する実験系を立ち上げることができたので、この実験系にキチンを導入し、粘液繊毛輸送による排出機能を定量的に検証することができると考えられる。気管上皮における繊毛の密度とキチン排出能の関係を今後明らかにしていきたい。 またセミインタクト細胞は、in vitroでありながらより生体内に近い構造を保った実験系として有用であると考えられる。細胞骨格や内在性タンパクがある程度保持されていることが想定され、シグナル伝達を再現できる可能性が高いと考えられるためである。この実験系を用いることにより、パパイン等により炎症を起こした細胞や薬剤に晒された細胞がどのようにシグナル伝達を通じて繊毛運動を変化させるのかを明確に解明することができると考えられる。 このように生体内に近い実験手法が確立されても、軸糸の3次元運動観察も依然として有用である。これまでの研究から、運動パラメーターを正確に算出することができることが実証されているためである。この実験系でシグナル伝達による運動の活性化を検証するためには、カスケードに関与する酵素が軸糸の状態でも微小管に結合していることを直接証明し、阻害剤により活性化が停止することを確認していく必要がある。この手法が確立すれば、cAMP-PKAシグナル伝達経路の再活性化を通じた喘息薬の効果を証明こともできるようになると考えられる。 このように、粘液繊毛輸送における液流や繊毛運動に焦点をあてた実験の他、今年度開拓した電子顕微鏡や蛍光顕微鏡による上皮組織の画像化も重要となる。これら静止画の解析においては、繊毛の脱離による密度低下や杯細胞の分布の変化を定量化していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の蔓延が長引き、2022年度も対面での研究交流がやや困難な状況が続いたことが直接・間接的な原因として挙げられる。しかしながら、プロテアーゼによる繊毛脱離を電子顕微鏡で観察することが可能となり、また繊毛周囲層の再現や上皮から水中方向への高さ定量の試みなども行い大きな進展があった。またセミインタクト細胞について繊毛研究会にて学生が対面で発表を行い、その内容についてのディスカッションを会場で行うことができたことは特筆に値すべき点である。2023年度は本研究をまとめる方向で実験と議論をより活性化していきたい。
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Research Products
(2 results)