2022 Fiscal Year Research-status Report
心臓発生におけるPitx2遺伝子の極性をもった発現の役割
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21K06203
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
小柴 和子 東洋大学, 生命科学部, 教授 (30467005)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 心臓発生 / 転写因子 / 形態形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
Pitx2は左心房に極性をもって発現する転写因子であり、同様に左心室に極性をもって発現する転写因子Tbx5が心室中隔形成に重要な役割を担っていることから、Pitx2の極性をもった発現も心臓の形態形成に何らかの役割を担っていると考えられた。そこで、Pitx2の極性をもった発現が中隔形成や心臓機能に与える影響を明らかにするために、Pitx2を心臓全体に発現するマウス(Pitx2異所性発現マウス)を作出し、解析を行ってきた。Pitx2異所性発現マウスは胎生12.5日目頃に致死となり、心臓の形態として、房室管およびその内部の心内膜床の形成に顕著な異常が認められた。さらに、心房中隔の形成不全や右心房の個性が阻害される表現型が認められた。このような心臓の形態異常が、どのような遺伝子の発現変化によって引き起こされるのか詳細に調べるために、シングルセルRNA-seqを行い、マーカー遺伝子の発現をもとに細胞種を同定し、細胞種ごとにPitx2異所性発現心臓において発現が変化している遺伝子の探索を行った。その結果、Pitx2異所性発現心臓には特徴的な内皮細胞の集団が存在することが見出され、さらには心筋においてWntシグナルに関与する遺伝子の発現が大きく変化していることが明らかになった。この結果はPitx2がWntシグナルを介して内皮や心内膜床の形成を制御しながら心房中隔形成に関与し、哺乳類の二心房二心室の心臓形成において重要な機能を果たしていることを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
心臓特異的に遺伝子組換え酵素Creを発現するマウスとCre依存的にPitx2とEGFPを発現するマウスとを交配して、心臓全体にPitx2およびEGFPを発現するマウス(Pitx2異所性発現マウス)を作出した。Creマウスをコントロールとして、10.5日胚心臓を用いてシングルセルRNA-seq解析を行い、マーカー遺伝子の発現をもとに、心筋、内皮、心臓前駆細胞等の細胞種に分け、それぞれの細胞種において発現が変化している遺伝子を探索した。その結果、Pitx2異所性発現胚のEGFP陽性の特殊心筋では洞房結節マーカー遺伝子群(Hcn4, Tbx18, Shox2, Smoc2)の発現が著しく減少していることを見出した。さらに、EGFP陽性の心筋ではサルコメア因子(Tnnt2, Actc1, Myl7など)の発現が著しく亢進しており、Pitx2が心筋分化を制御している可能性が見出された。心房中隔形成では、後方二次心臓領域の心筋分化のタイミングが重要であることから、Pitx2異所性発現胚では後方二次心臓領域での心臓前駆細胞の未分化性が失われることで心房中隔形成が抑制されている可能性が考えられた。加えて、Pitx2異所性発現胚のEGFP陽性の心筋ではWntシグナル阻害因子であるSfrp1, Dkk3の発現が亢進していた。このことから、心筋でのWntシグナルの阻害がPitx2異所性発現心臓で認められる細胞外基質の過剰な蓄積に影響している可能性が考えられた。 このように、心筋細胞を中心に発現変動している複数の遺伝子が同定されており、その機能からPitx2の異所性発現による形態変化との関連が予想され、計画は順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
シングルセルRNA-seq解析から見出された複数の遺伝子について、コントロール胚とPitx2異所性発現胚とで発現量をqPCRで比較するとともに、in situハイブリダイゼーションを行うことにより、発現様式の変化を詳細に調べる。また、シングルセルRNA-seq解析から推察された洞房結節および後方二次心臓領域の心臓前駆細胞の状態について各マーカーを用いた検証を行う。また、Pitx2と発現変動した遺伝子の関係を調べるために、各遺伝子の上流解析を行う。さらに、心筋初代培養系を用いてsiRNAによる機能阻害実験を行うことにより、遺伝子発現変化が二次的なものではなくPitx2の発現量によるものであることを検証する。これらの実験結果を取りまとめ論文化する。
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Causes of Carryover |
シングルセルRNA-seqの結果をもとにデータ解析を行い、今年度は今後着目して解析する遺伝子を絞り込むところまで作業を進めた。次年度はこれら候補遺伝子の詳細な発現解析を実施する予定である。
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