2022 Fiscal Year Research-status Report
緑藻メソスティグマのユニークな光防御機構の解析―淡水性緑藻から陸上植物へ
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21K06224
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高林 厚史 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (90546417)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 熱放散機構 / PsbS / 緑藻 / 光化学系の分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は3種類の緑藻のPsbS遺伝子およびシロイヌナズナのPsbS遺伝子をシロイヌナズナのnpq4株(PsbS欠損株)に導入した形質転換体を用いて、PAMクロロフィル蛍光解析により、緑藻のPsbS遺伝子の導入によりnpq4株の熱放散能が回復したかどうかを解析した。その結果、まず、シロイヌナズナPsbS遺伝子のみならず、3種類全ての緑藻のPsbS遺伝子の導入株においてnpq4よりも有意に高いNPQ(non-photochemical quencning)を示すことが明らかになった。しかし、NPQは熱放散のみならず、ステート遷移や光阻害の影響を含むパラメータである。そこで、熱放散の(より直接的な)指標であるqEを測定したところ、やはり形質転換体全てでnpq4株よりも高いqE値を示すことが明らかになった。これらの結果は緑藻のPsbS遺伝子がシロイヌナズナにおいても熱放散に機能し得ることを示す結果である。
なお、申請者による遺伝子配列解析の結果、(リポジトリに登録されていた)Mesostigma virideのRNA seqデータに由来するPsbS遺伝子の配列は、おそらく、Chlorokybusのものではないかと推測された。なお、ChlorokybusはM. virideの近縁種であり、緑藻の進化における系統的な位置はほぼ同一であるため、本研究の研究デザインには影響はない。
また、ストレプト藻類の光化学系の構造解析はまだ行われていない。とりわけ緑藻の進化初期に分岐したM. virideの光化学系の構造を明らかにすることは、緑藻の進化を考える上で重要である。そこで、M. virideの光化学系Iおよび光化学系IIをショ糖密度勾配で分離した結果、まずは光化学系Iについて良好なサンプルが得られたため、その構造解析を試みる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目の時点で、1) 形質転換体の作成、および、2) PAMクロロフィル蛍光解析を用いた表現型(熱放散能)の確認、ができたため、予定通りに進んでいると評価している。また、ショ糖密度勾配遠心法による光化学系の分離により、想定以上に質の高い光化学系Iサンプルが得られたため、その構造解析にもチャレンジしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
どの形質転換体においても有意なqEの上昇が見られたため、今年度は導入したPsbSタンパク質の蓄積量との相関を調べることで、導入したPsbSの熱放散誘導能を評価したいと考えている。また、陸上植物のPsbSの活性調節機構として、通常は2量体を形成しているが、ルーメンの酸性化により単量体になることで活性型として機能することが知られている。一方で、緑藻のPsbSが2量体形成を行うかどうかは未解明である。そこで、npq4株に導入した緑藻のPsbSもシロイヌナズナにおいて2量体と単量体の両方のフォームを取り得るかどうかについて、Native-PAGEで明らかにしたい。最後に、PsbSは光化学系IIに結合し得ることが知られている(ただし、その複合体の分離は難しい)。これについても、緑藻のPsbSも光化学系IIに結合し得るかどうか、Native-PAGEでの検証にチャレンジしたいと考えている。
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