2021 Fiscal Year Research-status Report
暗黒下におけるエチレン合成依存的・非依存的な葉老化制御機構の解明
Project/Area Number |
21K06232
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小塚 俊明 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 助教 (20402779)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 葉老化 / フィトクロム / エチレン |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の老化は,不要になった器官から栄養分を回収し再利用するための能動的なプログラム細胞死であり,植物にとって重要な環境応答機構の一つである.特に,本葉は光合成遂行器官であることから,暗い日陰におかれると葉老化が誘導されて窒素源を多く含むクロロフィル等が速やかに分解される.このような光環境の変化は光受容体フィトクロムによって認識されている.また,光環境応答による葉老化制御において,植物ホルモンのエチレンを合成されることにより老化が促進することが知られている.本研究では,光受容体フィトクロムによるエチレン合成の律速酵素をコードするACS遺伝子の転写制御機構を解明することを目的とする. 令和三年度では,モデル植物シロイヌナズナのゲノムに存在する9個のACS遺伝子の中で,最も重要なACS遺伝子を特定するため,各ACS遺伝子の発現解析を行い,光環境に応答して発現が変動する2個のACS遺伝子を絞りこんだ.さらに,ゲノム編集により作出したACS遺伝子の機能欠損型変異体を用いた本葉エチレン放出量の測定解析から,ACS8遺伝子が最も重要であると示唆された.そこで,ACS8遺伝子の発現パターンを詳細に調べるため,約5kbのACS8遺伝子上流配列をプロモーター領域として単離した.このプロモーター配列を用いて,MYCタグ付きACS8遺伝子を発現する形質転換体をacs8変異体背景で作出すると,エチレン合成欠損が野生型と同程度に回復することを確認した.そこで,ACS8プロモーター下流に,ルシフェラーゼまたはGUSレポーター遺伝子を配置したプラスミドを作出して,これらをシロイヌナズナに遺伝子導入した.その結果,フィトクロムが不活性化すると葉身の周縁部位において強くルシフェラーゼ発光が誘導された.さらに,GUS発現の解剖学的な観察から,主に葉肉細胞と維管束篩部において発現が検出された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和三年度において,光環境応答に最も重要なACS遺伝子の特定と,その詳細な遺伝子発現パターンを明らかにした.今後,ACS8タンパクの発現量変化をしらべるため,ACS8遺伝子プローモーター下でMycタグ融合型ACS8を発現するT3世代の形質転換体を用いて,Myc抗体によるウェスタン解析を行う. フィトクロムは,bHLH型転写因子PIFと直接相互作用して転写活性を制御することが報告されている. ACS8遺伝子がPIFのターゲット遺伝子である可能性を調べるため,葉肉プロトプラスト細胞を用いてACS8プロモーターのルシフェラーゼアッセイを行った.その結果,PIFの導入によりルシフェラーゼ活性の上昇が検出され,ACS8遺伝子プロモーターにPIFの結合によって転写が活性化すると示唆された.令和四年度以降では,プロモーター配列のデリーション解析やChIP-qPCR解析等により,詳細な転写制御機構を解明する. 一般的に,エチレンは暗黒下で老化を促進する植物ホルモンとして知られている.しかし,暗黒条件に応答したエチレン合成上昇が阻害されるacs8変異体でも,正常に葉老化が進行した.さらに,全てのACS遺伝子を欠損したacs九重変異体でも,野生型とほぼ同程度に葉老化が促進されたことから,エチレン合成に依存しない葉老化制御が推察された.そこでこの可能性を検証するため, acs九重変異体やエチレン処理によるトランスクリプトーム解析を行った.その結果,acs九重変異体でもフィトクロム不活性化によりほとんどのエチレン応答性遺伝子は光環境に応答してほぼ正常に発現変動することがわかった.この結果より,暗黒条件下では,フィトクロム下流因子がエチレンシグナル伝達に直接期に相互作用する可能性が推察された.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では,ACS8遺伝子の発現を促進制御する転写因子の探索を行う予定であった.ところが,ACS8遺伝子はbHLH型転写因子PIFの直接的ターゲットである可能性が示されたため,ACS8遺伝子プロモーターのデリーション解析とChIP-qPCR解析を進めることに変更する.ACS8プロモーター領域には,PIF結合候補配列として1個のG-box配列がある.そこで,このG-boxを範疇内とする,もしくは範疇外とするプロモーターのデリーションシリーズを作成してプロモーター解析を行う.解析には,葉肉プロトプラスト細胞によるルシフェラーゼレポーターアッセイを用いる.さらに,HAタグ融合型PIFを発現する形質転換体を用いたChIP-qPCR解析により,ACS8遺伝子プロモーター上のG-box配列に対するPIF相互作用を検証する.また,HAタグによるChIP反応が期待通り進まない場合に備えて,Mycタグ融合型PIFを発現する形質転換体を準備する. さらに, フィトクロムが不活性化する暗黒条件ではエチレン合成非依存的にエチレン応答が誘導されるメカニズムが推察された.今後,既知のエチレンシグナル伝達因子である,エチレン受容体ETR1,シグナル因子EIN2,EIN3/EIL1の役割を明らかにするため,各変異体を用いた葉老化の解析とトランスクリプトーム解析を進める. 光環境に応答したエチレン合成の生理的意義を明らかにするため,各acs変異体の表現型解析を行う.フィトクロムは不活性化するEnd of day Far-red 処理により,シロイヌナズナ野生型は胚軸や葉柄の徒長反応,花成の早期化,葉老化の促進などの応答を示す.これらの応答性における各acs変異体の表現型を調べることで,光環境に応答したエチレン合成の役割を明らかにする.
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では,Yeast One-Hybrid Library Screeningにより ACS8遺伝子プロモーターに相互作用する転写因子の探索を予定していた.しかし,令和三年度の研究成果により,ACS8遺伝子プロモーターにはbhLH型転写因子が直接相互作用する可能性がしめされたため,研究計画を変更してeast One-Hybrid Library Screeningを取りやめたことが主な理由として挙げられる.また,第63回日本植物生理学会年会がオンライン開催となり,出張費が生じなくなったことも理由として挙げられる.令和四年度以降には,エチレンシグナル伝達因子を用いた大規模なトランスクリプトーム解析を計画している.この解析を業者へ外注するための研究費に,次年度使用額として生じた助成金を使用する予定である.
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