2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K06265
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
山下 絵美 (川野絵美) 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (80804583)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 光受容 / ロドプシン / 非視覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、無顎類ヤツメウナギ脳から、新規の光受容タンパク質(bPPL)遺伝子を単離した。光受容タンパク質bPPLの詳細な解析を行い、それが青色光感受性の光受容タンパク質であり、中脳のシェーバーのM5核と呼ばれる、網膜に直接神経投射する遠心性神経(向網膜系ニューロン)で構成される神経核に局在することを発見した。そこで本研究では、ヤツメウナギ中脳シェーバーのM5核に存在する新規脳深部光受容器官が、どのような光情報を、網膜のどの細胞に伝達し、どのような生理機能の調節に関わるのかを調べることで、「脳内で受容した光情報を眼で利用する」という新しい光受容機能の可能性について検討する。 本年度は、中脳シェーバーのM5核の新規脳深部光受容細胞が、どのような光情報を出力するのかを検討するために、これらの細胞群で働く神経伝達物質やその合成酵素の同定を試みたが、本年度に行った実験ではそれらを特定することができなかった。次に、M5核の光受容細胞がどの種類の網膜細胞に光情報を伝達するのかを調べるために、詳細な組織学的解析を行ったところ、向網膜系ニューロンの軸索が投射する網膜細胞の種類を特定することができた。得られた結果は、新規の脳内光受容器官が担う生理機能を考える上で有用な知見であり、機能解明に向けて大きく前進したものと考えられた。加えて、ヤツメウナギの行動と光照射の関連について、予備的な調査を行ったところ、光に影響を受ける遊泳行動が観察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に行った解析では、ヤツメウナギの新規脳深部光受容器官の細胞群ではたらく神経伝達物質を同定するには至らなかった。引き続き、神経伝達物質の同定に向けて、これまでに挙げられているいくつかの候補分子をターゲットとして解析を進めて行く必要がある。一方で、詳細な組織学的解析を行い、向網膜系ニューロンの軸索の末端部が投射する網膜細胞を特定することができた。新規の脳深部光受容細胞が、どの種類の網膜細胞に光情報を伝達するのかを知ることは、どのような生理機能をコントロールするのかを理解するうえで重要な知見となる。また、ヤツメウナギの光に影響を受ける遊泳行動を観察した点に関して、本年度はまだ予備的な段階ではあるが、光が関係する行動の一端をつかんだことは大きな前進であると考えられる。そこで、本年度の研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、神経伝達物質の同定のための実験や生理学実験を行い、M5核の新規脳深部光受容細胞から出力される光情報の特徴を調べる。さらには、光が関わる行動についての予備的実験の結果を踏まえて、新規脳深部光受容器官との関連性について、さらなる解析を行う。また、向網膜系ニューロンでの光受容が、他の脊椎動物でも共通する機能であるのか、その共通性や多様性に着目した実験を行う。
|
Causes of Carryover |
ヤツメウナギ中脳M5核の新規脳深部光受容細胞で働く神経伝達物質の検討が困難であったので、予定していた実験に進むことができず、次年度使用額が生じた。本年度に引き続き、ヤツメウナギを用いた解析を進めるとともに、他の脊椎動物がもつ相同器官の同定に成功した場合は、多様な動物をターゲットとして同様の解析を進めることを目指しており、そのために次年度使用額を使用する。
|
Research Products
(3 results)