2021 Fiscal Year Research-status Report
神経活動マーカー分子の免疫染色によるカマキリ運動調節の神経回路の解明
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21K06269
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山脇 兆史 九州大学, 理学研究院, 講師 (80325498)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 運動制御 / 目標指向型運動 / 昆虫 / 胸部神経節 / カマキリ |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫では外骨格や筋肉の弾性が運動に大きな影響をあたえるため、脊椎動物とは異なる独自の運動制御の仕組みを持つ可能性がある。昆虫の運動制御の研究は飛翔や歩行などの反復運動において盛んに行われており、その神経回路が明らかになりつつある。一方、カマキリの捕獲行動のような、目標にあわせて動きを調節する運動は、繰り返し運動を再現することが容易でないため神経回路の解明はほとんど進んでいない。そこで本研究では、カマキリ神経系への電気刺激により異なる大きさの前肢運動を誘発し、運動中に興奮したニューロン群を神経活動マーカー分子への抗体を使って免疫染色することで、前肢運動の調節に関与する神経回路の同定を目指した。 電気刺激実験では、脳と前胸神経節をつなぐ神経である縦連合に電極を設置しパルス刺激を与えた。脳の下降性ニューロンは軸索を胸部神経節や腹部神経節まで伸ばし、そこで運動ニューロンや介在ニューロンにシナプス接続する。そのため、それらの軸索が通っている縦連合の電気刺激により下降性ニューロンを興奮させることが可能である。パルス刺激を与えた結果、各関節の伸展を伴う前肢運動の誘発に成功した。また、パルス刺激の頻度を変えることで、前肢運動の大きさを変えることにも成功した。この前肢運動は、電気刺激により興奮した下降性ニューロンが前胸神経節内の運動ニューロンを興奮させた結果生じたと想定される。 電気刺激によって前肢運動を引き起こした後は、前胸神経節を取り出し神経活動マーカー分子であるpERKに対する抗体を用いた免疫染色を行った。ニューロンが興奮すると細胞内のpERK濃度が上昇するため、染色強度が興奮の程度の指標となる。免疫染色の結果、電気刺激によって興奮したと想定される運動ニューロンの細胞体が観察できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電気刺激実験では、カマキリの拘束台、刺激部位、電気刺激のパラメータなどを工夫することで、効果的に前肢運動を引き起こし撮影する方法を確立できた。さらに、電気パルス刺激の頻度を操作することで、運動の大きさを変化させることに成功した。 免疫染色実験は、使用する抗体に応じて実験手順の調整が必要となる。特にpERK抗体の場合、神経活動の後pERKの濃度が最大になる時間で標本の固定処理を行う必要がある。実験条件を工夫し試行錯誤した結果、最終的に運動ニューロンの染色に成功した。 また電気刺激によって引き起こされる筋収縮を観察するために、X線マイクロCTを使って内部の筋骨格系の三次元構造を観察する予備実験を行った。さらに将来的には、カルシウムイメージングによる運動ニューロンの神経活動の計測を検討しているため、その予備実験も行った。 以上の状況から、目標は概ね達成できたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、pERK抗体を用いた免疫染色で観察されるシグナルが実際のニューロンの活動を反映することを確認する予定である。そのために、運動ニューロンを薬理学的に興奮もしくは抑制させた前胸神経節で同様の免疫染色を行い、pERKシグナルがニューロンの活動状態にあわせて変化するのを確認する。 また、できる限り少数の筋繊維のみが収縮するように電気刺激方法を細かく調整する予定である。その条件では比較的少数の運動ニューロンが興奮し染色されると予想されるので、個々の運動ニューロンとそのニューロンが神経支配する筋繊維の対応が明らかになると期待される。その後、関節運動の大きさに応じた運動ニューロンの集団活動の変化を観察することで、前肢運動の調節機構の解明を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、学会がオンラインで行われたため旅費が不要であったことや、想定よりも抗体の消費が少なかったことなどがあげられる。この余剰分は、薬理学的処理に必要な高価な試薬の購入などに使用する予定である。
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Research Products
(2 results)