2021 Fiscal Year Research-status Report
Visual neural mechanisms of flower recognition
Project/Area Number |
21K06273
|
Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
関 洋一 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (30634472)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 昆虫脳 / 微小脳 / ハナアブ / ホソヒラタアブ / 送粉システム / ポリネーター / 花 / 電気生理 |
Outline of Annual Research Achievements |
送粉システムを理解するためには、花の多様な形質が表現されるしくみだけでなく、それを利用する昆虫の視覚系の理解が欠かせない。しかし、送粉昆虫がどのように花を認識しているかの神経機構はまだよくわかっていない。本研究では、ハナアブの一種であるホソヒラタアブ(Episyrphus balteatus)をモデルに花認識の視覚神経機構を解明することを目的とする。 2021年度は、新たに実験材料としてホソヒラタアブを導入するため、出現場所や時期の把握から、成虫個体の採取と維持管理、採卵から幼虫飼育の条件検討など、飼育環境の整備を行った。前期は思うように個体数を確保できなかったものの、後期は各種実験を進めるのに必要な個体数を確保できるまでに改善した。また、訪花行動における重要な視覚要素を抽出するための行動実験系の確立、およびそれらの視覚要素を刺激に用いて中枢神経系のニューロンから応答を計測するための電気生理学的手法の確立を目指した。簡易的な行動実験系の構築により、飛翔行動の観察や行動活性の評価を行い、行動実験系の確立を進めるとともに今後の課題を抽出した。in vivo ホールセルパッチクランプ法を用いて高次視覚神経から神経応答を計測するため、ショウジョウバエですでに確立している方法の適用を試み、標本の作成や標的細胞を可視化する方法について検討を行った。また、脳構造を詳細にマップし、近縁のショウジョウバエのコネクトームレベルまで解明された脳と比較し、類似性を評価するため、シナプシン免疫染色による3次元脳構造データの取得を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、①飼育環境の整備、②行動実験系の確立、③電気生理学的手法の確立、④脳のマップ作成を進めた。このうち①と④については予定通り進んだが、②と③については少し遅れている。 ①飼育環境の整備については、ホソヒラタアブを研究に用いるために、ある程度の個体数を確保できる目処が立った。しかし、野外でのホソヒラタアブの出現時期のピークは想定したよりも短いことがわかったため、年間を通してコンスタントに材料を提供するためには、さらなる飼育方法の改良が必要である。 ②行動実験系の確立については、花の視覚特徴を抽出するための行動実験系の構築のため、40cm 四方のアクリルケース内で自由飛行を行わせ、花への定位行動を撮影、分析する簡易実験系を用いて行動を評価した。ケース内での静止時間が多く、野外でみられるような花の探索飛行を誘導するためには、さらなる条件検討が必要であることがわかった。 ③電気生理学的手法の確立については、in vivo ホールセルパッチクランプ法の適用を目指した。本年度の前期においては、実験に使用できる個体数が不足していたこと、後期においては、計測装置の予期せぬ故障のため十分な実験ができなかったことなどから、神経応答の計測には至っていない。一方で、ショウジョウバエで確立している方法と同様の手法で脳の後頭部の細胞の可視化および電極のアクセスが可能なことがわかり、標本作成については目処が立った。 ④脳のマップ作成については、脳を解剖により取り出し、シナプシン抗体を用いた免疫染色により脳全体を標識し、共焦点顕微鏡により脳の3次元スタック画像を取得できることを確認した。そして、雌雄10個体ずつの脳サンプルの画像データを取得した。さらに、各脳領域の定性的および定量的な評価を進めており、理解の進んでいるショウジョウバエの脳との詳細な比較を行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
飼育方法の改良については、幼虫の餌であるアブラムシが不足して幼虫の飼育に支障をきたしたことから、アブラムシの飼育系を確立し、安定的に供給することを検討している。また、研究室内での継代方法の確立も目指している。 行動実験系の改良については、引き続き飛翔行動を誘導する要素の条件検討を進める。また、選好性を評価するための刺激の提示方法や行動を定量化するための画像解析方法を確立する。また、自由飛行の実験系の構築と並行して、固定した個体の飛行状態を計測し、視覚刺激の提示に対する定位行動や探索行動を評価するためのテザード飛行実験装置の構築を進める。 電気生理学的手法の確立については、まずin vivoでの神経応答の計測系を確立し、次に刺激を提示するためのシステムを構築する。行動実験で抽出した花の視覚要素刺激を実現するために、形状、大きさ、色などの物体の複雑な視覚刺激要素をコントロール可能なシステムを構築し、それらの刺激提示に対するニューロンの応答を記録する。記録後はニューロンを染色し、形態を詳細に解析する。さらに、得られた形態染色画像から、構成する神経回路の情報処理機構を推察するとともに、ショウジョウバエにおける相同なニューロンを同定し、その機能や接続関係についても比較参照する。
|
Causes of Carryover |
本年度は、当初計画していた実験計画に遅れが生じたため、行動実験装置および電気生理実験用の刺激装置を構築するために計上していた予算を繰り越した。行動実験装置構築のためには、様々な条件検討が必要であり、最適な行動実験装置の案が決まり次第すみやかに機器や部品を購入する。また、電気生理実験用の刺激装置構築のためには、提示する刺激の具体的な案が決まる必要があり、その決定のためには行動実験による予備的な評価が必要である。電気生理実験においては、in vivoパッチクランプの計測系を確立し、その後、必要な刺激装置の案が決まり次第すみやかに機器や部品を購入する。
|