2021 Fiscal Year Research-status Report
新規ヒストン修飾解析手法を用いた白色脂肪細胞分化過程のエピゲノム変化の解析
Project/Area Number |
21K06282
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
稲垣 恭子 日本医科大学, 医学部, 講師 (70537430)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 白色脂肪細胞 / 質量分析 / ヒストン修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満症克服は現代社会の重要な課題であり脂肪蓄積メカニズムの解明が必要である。環境因子は細胞に記憶され、遺伝子の塩基配列に依存せず遺伝子発現を調節する機構(エピゲノム)を調節する。DNAが巻き付いているヒストン修飾はDNA発現を調節する。これまでエピゲノム研究はヒストン修飾部位への抗体を用いた手法が用いられ、抗体の質に依存する問題点があった。本研究では抗体を必要としない質量分析法を改良し網羅的ヒストン修飾解析の手法を確立し、脂肪細胞分化におけるヒストン修飾の組み合わせの意義を解明することを目的としている。質量分析を用いた脂肪細胞分化過程の網羅的ヒストン修飾同定の報告は過去になく、脂肪蓄積におけるエピゲノム機構の解明は、肥満症治療の創薬への一助となる可能性がある。 本研究では、質量分析の前処置薬である無水プロピオニルを同位体試薬13C無水プロピオン酸とすることで、従来同定できないヒストンモノメチル化同定が可能となると考え基礎実験を行った。3T3-L1前駆細胞に対し、分化誘導培地により分化を誘導し、2日後インスリンのみを含む培地、4日目以後通常培地で培養し、8日間をかけて3T3-L1脂肪細胞に分化させ、分化前、8日後の3T3-L1細胞からヒストンを精製し、質量分析前措置として通常の無水プロピオン酸処理と、改良法である無水プロピオン酸同位体標識試薬(13C無水プロピオン酸)処理をそれぞれ行い、トリプシン消化、オービトラップ質量分析計にかけ、データベース検索エンジンMascotによりヒストン修飾同定を行い、13C無水プロピオン酸処理によりモノメチル化が同定されることを確認した。これより分化前、1日、2日、4日、8日後の白色脂肪細胞分化細胞のヒストンを、無水プロピオン酸、および13C無水プロピオン酸処理を行い、ヒストンの脂肪分化における経時的修飾変化の基礎データを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では白色脂肪細胞の脂肪分化おけるヒストン修飾を網羅的に解析し、ヒストン修飾の中でも同一ヒストン内のヒストンビバレント修飾の存在と意義を明らかにすることを目的としている。ヒストン修飾の分析において、既報の質量分析(セミボトムアップ法)ではヒストンモノメチル化と同一質量の修飾を判別できないことから、本研究では質量分析の前処置である従来(セミボトムアップ法)で行われる無水プロピオニル処理を同位体試薬13C無水プロピオン酸処理とし、従来法で同定できないヒストンモノメチル化の同定の可能な方法を確立すべく条件検討を行った。 条件検討により、13C無水プロピオン酸処理による質量分析が可能であり、モノメチル化の同定が可能であること、モノメチル化も含んだビバレント修飾が同定できることが確認された。条件検討後、白色脂肪細胞分化過程の時系列変化を確認するためのプロトコールも確立し、データを収集している。本年は13C無水プロピオン酸を前処置としたセミボトムアップ法の変法の確立、およびヒストン修飾の経時的変化を同定するためのプロトコールを作成することができ、概ね順調に進展している。 ただし、COVID-19による行動制限、業務拡大により実験計画の進行に難渋した経緯もあり、今後の研究の遂行、解析の進め方について計画的に行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在白色脂肪細胞分化過程のヒストン修飾変化を観察するため、無水プロピオニル処理と同位体試薬13C無水プロピオン酸処理のそれぞれの手法を用い、白色脂肪細胞の分化過程におけるヒストン修飾のデータを収集している。これらのデータにおいて、ソフトウエアで表示されるヒストン修飾が真であるかの検証、および再現性を確認する必要があり今後はヒストン修飾のデータ解析を進めていく。従来法と13C無水プロピオン酸処理による結果の違いの有無があるかは不明であり、これらの解析も進める必要がある。このような実験系が適切であるかの検証とともに、得られたデータから白色脂肪細胞分化におけるヒストン修飾の変化を今後は確認する。ヒストン断片とヒストン修飾は多彩であり、得られる結果が再現性を持つか否かの検証も必要である。また大量のデータ解析を必要とするため、データの処理について統計ソフトウエアを用いた解析も進め、関連があると予想されるヒストン断片とヒストン修飾以外にも、網羅的にデータを解析することから得られるデータを確認する。これまで概ね順調に計画は進展しているが、COVID-19による行動制限、業務拡大により研究時間確保が困難であった期間もあり、進捗の管理には留意する必要がある。得られたデータの解析手順を確立し、解析内容の計画を立て対策を行う。
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Causes of Carryover |
予備実験で本研究採択前に使用していた13C無水プロピオン酸の残りを使用し研究を遂行したため、高額の試薬購入を次年度に行うこととした。このため、次年度分への物品購入費のため次年度使用額が生じた。また、実験手技とプロトコール確立を本年行っており、データ解析に必要物品の購入を次年度としたため次年度使用額が生じた。
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