2021 Fiscal Year Research-status Report
広塩性の無腸動物を用いて始原的左右相称動物の浸透圧適応機構に迫る
Project/Area Number |
21K06290
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
彦坂 暁 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 准教授 (30263635)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 無腸動物 / 進化 / 浸透圧適応 / 左右相称動物 / トランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
無腸動物はきわめて単純な体制の海産動物で、浸透圧調節に関わる腎臓、鰓、腸管などの器官を持たず、環境変化から体を保護する殻や外骨格も持たない。それにも関わらず、瀬戸内海産の無腸動物の一種ナイカイムチョウウズムシは海水の1/5から2倍まで、きわめて広い塩濃度変化に耐えうる広塩性であることが分かった。 浸透圧変化への適応は生物にとって最も重要な環境適応の一つである。無腸動物は動物進化の初期段階の始原的左右相称動物の形質を色濃く残していると考えられており、かれらの浸透圧適応機構を研究することは、高度な器官を進化させる以前の動物の祖先が、浸透圧適応という重要な課題にいかに対処していたのか、その原初的機構の理解につながる可能性をもつ。そこで本研究では、ナイカイムチョウウズムシの浸透圧適応機構を明らかにすることを目指し、外部環境の塩濃度変化によってナイカイムチョウウズムシにどのような変化が起きるかを調べることを目的とする。 ナイカイムチョウウズムシは塩濃度の変化に対応して何らかの生理的な応答をしているはずであり、その背後では遺伝子発現の変化が生じていると考えられる。そこで、2021年度は、塩濃度の変化に応答した遺伝子発現の変化をトランスクリプトーム解析によって明らかにし、かれらが遺伝子発現レベルでどのような浸透圧耐性機構を発動しているかについて調べた。具体的には、通常濃度の人工海水で飼育したナイカイムチョウウズムシと、高塩濃度、低塩濃度で処理したナイカイムチョウウズムシからそれぞれRNAを抽出し、RNAの発現変化を調べた。その結果、塩濃度の変化によって発現が上昇あるいは低下している遺伝子の候補をいくつか見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、ナイカイムチョウウズムシが塩濃度の変化に対応して、体型、細胞の形態、藻類との共生関係、体内の浸透圧、遺伝子発現などをどのように変化させるかについて調べることを計画している。初年度はこのうち遺伝子発現の変化について主に調べることになったが、この解析はほぼ順調に行うことができた。そのため、おおむね順調に進展していると自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、当初の予定通り、塩濃度の変化に対応して、体型、細胞の形態、藻類との共生関係、体内の浸透圧がどのように変化するかを調べていく予定である。ただし内定額が申請額より大幅に削減されたため、体内の浸透圧計測のために購入を予定していた機器の購入が困難になった。この機器なしで研究を遂行する方策があるか考えるのが今後の課題である。
|
Causes of Carryover |
初年度に浸透圧測定に必要な機器を購入する計画で経費を申請していたが、交付決定額が申請額より大幅に削減されていたため、この機器を購入することができなくなった。そのため初年度の使用額が減少し、次年度使用額が生じた。 次年度使用額と翌年度分を合わせても当該機器の購入は困難であるため、代替の方法を考案する予定であり、繰越分の額はこれに使用する。
|