2022 Fiscal Year Research-status Report
ボルボックス系列緑藻で探る性フェロモンの進化プロセス
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21K06294
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
豊岡 博子 法政大学, 生命科学部, 助手 (00442997)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 性フェロモン / ボルボックス系列 / 細胞間コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、性フェロモン等の生理活性物質を介した細胞間コミュニケーションシステムが真核生物において獲得され、進化したプロセスを、分子レベルで解き明かすことを目的とする。そのために、有性生殖の誘発の要因が、「環境要因(窒素飢餓)」から「性フェロモンを介した細胞間コミュニケーション」に転換した系統群・ボルボックス系列緑藻を用い、その中間段階にあるユードリナに着目した研究を行う。研究代表者はこれまでに、ユードリナ雄株の培養上清中に、雄配偶子の群体(すなわち精子束)を誘導する活性を持つ性フェロモンタンパク質が存在することを示した。本研究では2021年度までに、この性フェロモンの活性を検証するためのバイオアッセイ系を確立した。2022年度はこのバイオアッセイ系の精度を高めるため、ユードリナの生活環のどの段階の細胞が性フェロモンを感受して精子束に分化できるかを検証した。その結果、性フェロモンを含む培養上清を、胚発生期が始まる9時間前までに投与すると、ほとんどの細胞が精子束に分化することがわかった。さらにこのバイオアッセイ系を用いて、性フェロモンを濃縮・分画する方法を検証し、硫安沈殿によって粗分画する条件を見出した。またこの性フェロモンは、陽イオン交換カラムによって一部回収できることを示した。今後はこの性フェロモンタンパク質を、これまでに明らかになった性質に基づいて濃縮・分画し、ゲル濾過クロマトグラフィーによって精製して質量分析を行うことで、分子同定することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者らはこれまでに、ボルボックス系列緑藻の中間段階生物のユードリナ雄株の培養上清中に、雄配偶子の群体(すなわち精子束)を誘導する活性を持つ性フェロモンタンパク質が存在することを示した。本研究はこの性フェロモンタンパク質の分子同定を目指しており、その達成のためには、1)性フェロモン活性を検証するためのバイオアッセイ系と、2)培養上清中の性フェロモンを濃縮・分画するための手法の確立が必須である。本研究では2021度までに、1)のバイオアッセイ系の確立に成功した。2022 年度はこのバイオアッセイ系の精度を高めるため、性フェロモンを感受できる細胞の条件の明確化を試みた。具体的には、ユードリナの生活環の各段階にある細胞に対して、性フェロモンを含む培養上清を投与し、精子束に分化できるか否かを検証した。その結果、胚発生期が始まる9時間前までに培養上清を投与すると、9割程度の細胞が精子束に分化することがわかった。さらに2)の、性フェロモンの濃縮・分画法を検討した。まず性フェロモンを含む培養上清に対して、硫安沈殿による分画を行い、上記のバイオアッセイ系を用いて精子束誘導活性を検証した。その結果、硫安濃度が60~80%飽和で沈殿するタンパク質画分を用いた場合に高い精子束誘導活性がみられ、0~60%飽和での沈殿画分には多くの目的外タンパク質が含まれていたことから、硫安沈殿による分画が有効であることがわかった。またこの性フェロモンタンパク質は、陽イオン交換担体であるCMセファロースにpH7.2条件下で一部吸着したため、この条件下で正の電荷をもつことが明らかになった。以上のことから、本研究の中心的な課題であるユードリナの性フェロモンの同定に向けて、当初の計画からはやや遅れているものの、確実な進展がみられるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、これまでに確立した実験系や有効性を示した技術を活用し、ユードリナにおいて精子束誘導活性を持つ性フェロモンタンパク質の分子同定を行う。具体的には、精子束誘導活性を有する雄株培養上清を大量に調整し、そこに含まれる細胞外分泌タンパク質を硫安沈殿により粗分画する。得られた活性画分を、AKTA prime plusシステムを用いてゲル濾過クロマトグラフィーによって分画する。得られた各画分について、既に確立したバイオアッセイ系を用いて精子束誘導活性を持つ画分を特定する。この活性画分に含まれるタンパク質の質量分析(LC-MS/MS;外部委託)を行うことで、性フェロモン候補タンパク質の配列を得る。この配列を元に候補タンパク質をコードするcDNAをクローニングし、大腸菌等を用いて組換えタンパク質を作製して、その精子束誘導活性を検証することで性フェロモンタンパク質を同定する。 また上記で同定したユードリナの性フェロモンタンパク質の受容体の同定を目指す。具体的には、性フェロモンに対する反応性の異なる雄株サンプルを用いた比較トランスクリプトーム解析を行い、高い反応性を示すサンプルで多く発現する遺伝子群を特定する。その中から受容体として働きうる構造を持つ遺伝子を選抜し、組換えタンパク質を用いた性フェロモンとの相互作用解析や機能阻害実験によって、その機能を検証する。 さらに上記の解析で得られたユードリナの性フェロモンおよびその受容体タンパク質について、ゲノムデータベースから他のボルボックス系列緑藻におけるオルソログタンパク質の配列を取得し、各生物間での比較解析を行う。これらの解析により、性フェロモンおよびその受容体が、どのような分子進化を経た上で誕生したのかを推定することで、生理活性物質を活用した細胞間コミュニケーションの誕生の鍵となる進化プロセスの理解に迫る。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では2022年度までに、ユードリナの性フェロモン候補タンパク質の質量分析を外部委託にて行うことを予定していた。しかし、同候補タンパク質を含む培養上清の大量調整法や、濃縮・分画法の確立に試行錯誤が必要であったため、同年度内に質量分析を行うまでには至らなかった。これらの手法の確立については、2023年度開始時点までに概ね目処がついているため、同年度内に候補タンパク質の質量分析を行うことが可能であると考えられ、そのための予算に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)