2021 Fiscal Year Research-status Report
進化的感覚器喪失に起因する神経回路変化を実験的に再現する
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21K06298
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
守屋 敬子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 研究員 (70392371)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 鋤鼻感覚 / 霊長類 / 内側扁桃体 / 扁桃体皮質核 / コモンマーモセット |
Outline of Annual Research Achievements |
実験動物として多用されているマウスでは、フェロモン受容器である鋤鼻器を起点とした鋤鼻感覚が繁殖行動や天敵感知を担っており、種や生命の維持に重要な感覚であることはよく知られている。一方、ヒトの鋤鼻器は退化しており、鋤鼻感覚を喪失している。しかし、ヒト胎生期では鋤鼻器が認められ、発達に伴って痕跡化すると言われている。このことから、ヒトは鋤鼻感覚を失っても生命維持や繁殖には影響がないと言える。 末梢の鋤鼻器と同様、脳でも系統発生的に鋤鼻神経回路となるべき神経細胞は発生の段階では生じるものの、『神経細胞の喪失』『神経回路の喪失』『神経回路の組み替え』のいずれかの変化が加わると予想される。 本研究では、上記の疑問を実験的に解明することを目指し、霊長類であるコモンマーモセットをモデル動物として鋤鼻機能喪失マーモセットの作成を試みている。マーモセットは成獣でも鋤鼻器はあるが、鋤鼻受容体の多様性は少なく、鋤鼻器の形態も未成熟な性質を備えている。化学感覚受容に関しては、よく活動する嗅覚受容体を発現している嗅神経細胞の方が選択的に生存しやすいこと、化学感覚受容に必須な因子の欠落で、脳への軸索投射が消失することなどが知られているため、マーモセット鋤鼻受容の機能低下を引き起こせれば、鋤鼻機能の消失を導けると考えた。 具体的には、新生仔マーモセットに、内向き正流性カリウムチャネルであるKir2.1を鋤鼻器で過剰発現させ、鋤鼻機能の低下した個体を作成した。今後性成熟を待ち、行動観察をした後に神経回路トレーサーを用いて神経回路変化を確認する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新生仔コモンマーモセットを入手するため親のペアリングから開始したところ、良い番を形成する過程で予想以上に時間がかかった。それでも年度内に新生仔を得ることができ、鋤鼻機能消失モデルの作成を行うことができた。 しかし、機能損失のレベルについては現段階では判定不能であるため、それ以外の方法を試みる必要性は感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
実験動物の入手が容易では無いため着手できる頭数に限界があるが、別の方法での鋤鼻機能消失モデルの作成を試みる予定である。 また、今後は神経回路トレーサーを用いた神経回路の可視化を行い、組織学的研究と組み合わせ、コントロール群との比較を行う予定である。 さらに、マウスなど別の動物の回路を調べ比較系形態学的解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
実験用の動物は所属研究機関で繁殖しているものを購入して使用するシステムであるが、年間の払い出し数が定まっており、利用者間で融通することになっている。今期間内の仔運輸可能頭数が2頭のみとなってしまった事や、繁殖用雄を貸与扱いにしてもらえたことから、動物購入費を計画ほど使わずに済んだ。 また、新型コロナウイルス感染症の影響で宿泊を伴う学会への参加もなかったため、旅費も使用していない。 2022年度は、供給可能な動物頭数の増加が見込まれると報告を受けているため、次年度使用額が生じた分を当てて実験頭数を増やす予定である。
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