2022 Fiscal Year Research-status Report
「消化管が退化した自活性線虫」の分類学的位置と寄生性の起源
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21K06299
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
嶋田 大輔 独立行政法人国立科学博物館, 分子生物多様性研究資料センター, 特定非常勤研究員 (30768445)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 線形動物 / 寄生虫 / 消化管 / 系統樹 / 新種記載 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初予定では2022年度までに標本収集の大部分を完了し,年度後半は塩基配列の決定を重点的に進める計画であったが,2021年度計画の遅れの影響により,2022年度は標本収集と形態観察に多くの時間を費やした. 北海道沿岸で1回,関東沿岸で2回の調査を実施し約3,000個体の自活性線虫を採集するとともに,計8回の調査船航海で採集された約2,000個体の自活性線虫を収集した.北海道の採集では消化管退化線虫は得られなかったが,関東からはSiphonolaimus 属が100個体以上得られた.本属は深海に多く見られるが,希少な浅海性種の標本が得られたことで,深海性種との系統的な比較が可能になった.調査船サンプルからは寄生性線虫Trophomera属の複数種,およびRhaptothyreus属とMermithidae科各1種の自活性成虫が得られた.Rhaptothyreusと海産Mermithidae科は世界的にも珍しく,比較対象として特に役立つことが期待される.退化的・特異な形態の消化管を持つ自活性線虫Aegialoalaimus,Cylindrolaimus,Bodonemaの各属は2021年度の採集で少数のみ得られており追加の採集が望まれるが,同地点または近隣地点のサンプルからも出現しなかった. また,海産甲殻類から摘出されたMermithidae科寄生線虫の系統解析を世界で初めて実施し,同科は海から陸へ進出したのではなく,陸産種から海産種が進化した可能性が高いことを見出した.加えて,消化管を持つ自活性線虫にも複数の未記載種が確認されたため,新種記載を継続して行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度の遅れが影響しており,今年度も当初計画通りに進められたとは言えない.調査に関しては2022年度までに行う予定をおおむね消化できているが,九州で予定していた調査地点は環境保護のため立ち入りが制限されていることがわかり,代替地点を選定して2023年度に実施する予定である.消化管が退化した線虫の標本収集は2021年度の成果と合わせて順調に進んでおり,寄生性線虫の標本は予定以上に収集できている.2022年度中に実施する予定であった分子系統解析はようやく準備が整いつつあるところで,2023年度に重点的に行っていく必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度も標本収集は継続するが,沿岸での調査は九州での1回のみとし,より特殊化した種の出現が期待できる深海サンプルの同定を重点的に行う.形態観察とDNA実験に十分な個体数が確保できているSiphonolaimusなど一部の消化管退化線虫については,塩基配列の決定と分子系統解析に着手し,年度内に系統的位置の解明を進める.
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Causes of Carryover |
沿岸調査の一部が2022年度までに実施できず,また調査船航海に参加できなかったため,旅費を繰り越すことになった.沿岸調査は2023年度に実施する見込みである.調査航海は自身が乗船せずとも乗船者よりサンプルの提供を受けることによって想定した以上の収集ができているため,調査航海分の旅費は余剰となった.しかし,標本数が当初予定より多くなっており,標本作成・形態観察・DNA実験の物品費が赤字となることが予想されるため,旅費の余剰分はその補填に使用したい.その他に計上した印刷費や論文投稿料は研究計画の遅れのために大部分を繰り越したが,2023-2024年度には予定通り使用する,または一部を物品費の補填に使用する見込みである.
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