2023 Fiscal Year Research-status Report
「消化管が退化した自活性線虫」の分類学的位置と寄生性の起源
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21K06299
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
嶋田 大輔 独立行政法人国立科学博物館, 分子生物多様性研究資料センター, 特定非常勤研究員 (30768445)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 線形動物 / 寄生虫 / 消化管 / 系統樹 / 新種 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の目標は,消化管が全く退化したまたは退化的な形態形質をもつ海産自活性線虫類の標本収集を続けるとともに,主に核の18SリボソームRNA遺伝子の配列に基づいてそれらの線形動物門内における系統的位置を推定することであった. まず標本収集については,北海道・関東・九州の海岸から2,144個体を新規に採集するとともに,日本近海で実施された深海調査船航海で得られた2,299個体の提供を受けた.加えて本研究の開始以前に採集された3,676個体の博物館標本の再観察も行った.すべての標本を種名まで同定することはできなかったが,少なくとも183種の海産自活性線虫が確認された.そのうち本研究のターゲットである消化管が退化した線虫は15種252個体であった.ただし,これまでにも得られている浅海性の1種が235個体で90%以上を占めており,それを除くと14種17個体が新たに得られた. 系統的位置の解明については,消化管退化線虫のうち複数個体が得られた4属5種の計6個体を破砕してDNAを抽出し,核の18S遺伝子およびミトコンドリアのCOI遺伝子のほぼ全長配列を決定した.また,比較対象として消化管を持つ自活性線虫7目17属30種191個体の塩基配列も決定した.これらの配列およびGenBankから得た既知の自活性・寄生性線虫の18S塩基配列を用いた系統解析の結果からは,消化管退化線虫は消化管を持つ自活性線虫のグループから独立に何度も進化したこと,完全な寄生性線虫とは系統的に近縁でないことが示唆されてきた. 以上に加えて,本研究を遂行する上での困難であった「消化管退化線虫の絶対数が少なく,DNA抽出のために破砕する標本の確保が難しい」点について,組織外に染み出した成分を濃縮することで非破壊的にDNAを回収することが可能との示唆が得られており,NGSの利用も視野に入れたプロトコルの検討を行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022度から延期した分も含めて,2023年度までの採集調査・標本収集は予定通り実施できた.分子系統解析もおおむね順調に実施できているが,新型コロナウィルス流行のために2021年度に生じた遅れを取り戻すまでには至っていない.
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画のとおり,ミトコンドリア遺伝子の塩基配列を用いたより詳細な系統解析を重点的に実施する. 標本収集については,日本の海岸に分布する消化管退化線虫のうち存在が明らかな種は採集できたと考え,2024年度に新規の採集は実施しない予定である.調査船航海による深海からの標本収集は引き続き行い,新たな種の発見と既知種の標本の追加を目指す. DNA実験については,GenBank等のデータベース上に塩基配列が登録されていない分類群を中心に,引き続き18SおよびCOI遺伝子の配列を蓄積し,多様性情報の拡充に努める.18S遺伝子の解析によって目レベルの系統的位置が明らかになった消化管退化線虫のCOI遺伝子による解析を行い,目の中での詳細な系統的位置の解明を実施する. また,1個体しか採集されていない種が少なくないため,標本を破砕せずにDNAを抽出する手法の検討を進め,そのような種のDNAも系統解析に利用することを目指す.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス流行のため2021年度の研究計画が大きく遅れたことが影響しており,当初計画にて2023年度に使用する予定であった金額をほぼそのまま繰り越すこととなった. 研究代表者は2024年度より他機関に異動しており,研究環境の構築(主にDNA実験機器)に繰越額の大半を使用する見込みである. 2024年度の支給額については,物品費は当初計画よりも標本数が増大していることにより支出額が増加しており,旅費およびその他から多少の補填を行う見込みである.旅費は十分な標本数が確保できており新規の採集を減らす予定であること,調査航海への参加が難しいことなどから当初計画より使用額が少なくなる見込みで,余剰分は物品費として使用する.その他は論文投稿料・校閲料・印刷費等として計画通り使用するが,物品費が不足した場合はその補填を優先する.
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