2021 Fiscal Year Research-status Report
被子植物キク類(Asterids)における初期形態進化の解明
Project/Area Number |
21K06301
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
徳岡 徹 静岡大学, 理学部, 准教授 (90303792)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 被子植物 / ツツジ目 / 生殖器官 / 解剖学 / 形質進化 / 珠皮 / ツバキ科 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、被子植物の大部分を占めるキク類(asterids)において、2珠皮性胚珠から1珠皮性胚珠への進化がどのような過程で起こったのかを明らかにすることを目的としている。キク類のツツジ目を研究対象とし、今年度はツバキ科についてその内外珠皮の発生だけでなく生殖器官の解剖学的形質を詳しく観察した。天城山に生育するヒメシャラの若い蕾から成熟した果実の段階までをFAAで固定し、観察の材料とした。これらを通常のパラフィン切片とし、光学顕微鏡で観察した。その結果、ヒメシャラは薄層珠心であり、内珠皮の内層がエンドテリウムとして分化するなど、多くのツツジ目が持つ特徴を共有していた。一方、ヒメシャラは他のツバキ科と同様に胚珠に二枚の珠皮を持ち、その二枚の珠皮は表皮から発達すること、成熟胚嚢の段階で珠心の組織が残っていることが明らかになった。これらの形質状態は近縁なツツジ目植物には見られず、ツバキ科の共有派生形質であることが示唆された。珠皮の枚数の進化は今回の研究でも明らかにすることができなかったが、キク類で2枚から1枚に進化した後ミズキ目の一部、ツツジ目の一部で1枚から2枚へ戻るという仮説と、ミズキ目の一部、ツツジ目の一部、シソ類とキキョウ類の単系統群のそれぞれで2枚から1枚への進化が起こったという仮説の2つが立てられた。また、ナツツバキ連の形質状態が明らかになったことで、ツバキ科内で変異の見られた形質の進化が明らかになった。チャノキ連に見られるネギ型の胚嚢形成様式はタデ型から派生したものと考えられた。加えてタイワンツバキ連の一部にみられる湾性胚珠は倒生胚珠から派生したものと考えられた。ヒメシャラの二枚の珠皮には維管束が通っていないことから、タイワンツバキ連とチャノキ連にそれぞれ外種皮と内種皮に維管束が見られるのはそれぞれの派生形質であることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題ではキク類のツツジ目を研究対象とし、今年度はツバキ科についてその内外珠皮の発生だけでなく生殖器官の解剖学的形質を詳しく観察した。その結果、ヒメシャラは薄層珠心であり、内珠皮の内層がエンドテリウムとして分化するなど、多くのツツジ目が持つ特徴を共有していた。一方、ヒメシャラは他のツバキ科と同様に胚珠に二枚の珠皮を持ち、その二枚の珠皮は表皮から発達すること、成熟胚嚢の段階で珠心の組織が残っていることが明らかになった。これらの形質状態は近縁なツツジ目植物には見られず、ツバキ科の共有派生形質であることが示唆された。珠皮の枚数の進化は今回の研究だけでは明らかにすることができなかったため、今後はツバキ科に近縁な分類群の研究が必要である。ツバキ科内の形態進化についてはチャノキ連に見られるネギ型の胚嚢形成様式はタデ型から派生したものと考えられた。加えてタイワンツバキ連の一部にみられる湾性胚珠は倒生胚珠から派生したものと考えられた。ヒメシャラの二枚の珠皮には維管束が通っていないことから、タイワンツバキ連とチャノキ連にそれぞれ外種皮と内種皮に維管束が見られるのはそれぞれの派生形質であることが示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
本課題ではツツジ目を研究対象とし、目内における珠皮の枚数の進化を明らかにすることを目的としている。今年度はツバキ科について研究を行ったが、珠皮の枚数の進化は今回の研究だけでは明らかにすることができなかったた。今後はツバキ科に近縁な分類群の研究が必要であり、特に近縁な広義サクラソウ科やペンタフィラ科の情報が必要である。来年度以降はこれらの分類群について材料収集を中心に研究を進める計画である。また一方で、今年度までに行った研究をまとめ学術雑誌に投稿することを計画している。
|