2021 Fiscal Year Research-status Report
深海底生命圏における未知原始ウイルス群:その実態と初期進化プロセスの解明
Project/Area Number |
21K06312
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
吉田 光宏 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生命理工学センター), 准研究員 (60565555)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 深海 / 海底下 / 堆積物 / ウイルス / メタゲノミクス / 微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、海洋環境に存在するウイルスは、宿主である微生物への感染を経て、それらの群集組成に顕著な変化や多様性を付与する事例、また、海洋の炭素循環にも寄与することが報告されており、海洋ウイルスの生態学的重要性について、これまで精力的に研究が行われてきた。しかしながら、生命誕生の場とされる深海底生命圏におけるウイルスの知見は極めて少ないのが現状である。そこで本研究では、一本鎖DNAやRNAタイプの未知原始系統群をも標的とする分子生態学的ウイルス群集解析手法を用いて、深海底ウイルスの群集構造や多様性などに関する生態学的知見の収集を目的としている。 まず、環境試料の調製としては、日本近海(下北半島沖)の海底下深部堆積層より採取したコア試料を用いて、異なる堆積層ごとに切り分けて回収した計6種(海底下0.9~59m)の堆積物試料を準備した。これらの試料からウイルス画分を回収し、この画分からウイルスのゲノムDNAの抽出を行った。次に、現場ウイルス群集メタゲノムを標的とした網羅的解析手法を各試料に対して実施した。取得したウイルスメタゲノムの配列をもとに、現場におけるウイルスの全ゲノム配列の構築を試み、主要な検出ウイルスのゲノム配列を解読することに成功した。さらに、データ解析の実践によって、”真核生物に最も近い原核生物”Asgard古細菌を宿主とするウイルスタイプのゲノムが深海の海底下から高頻度に検出されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が独自に最適化したウイルス回収法、およびウイルスメタゲノムに対する網羅的メタゲノム手法を使用することで、試料中のバイオマスがごく微量であることが想定される海底下深部堆積層より、現場に潜む未知のウイルス群集に由来するゲノム配列を発見するに至った。さらに、真核生物の原始タイプとして注目されるAsgard古細菌に感染するウイルスゲノムが大量に存在している可能性が高いことを突き止められた。こうした知見の取得を踏まえ、当初の計画どおり研究を遂行できたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後さらに、海底下のより深部の堆積層の試料からも、深海底生命圏における新規極限環境ウイルスの探査を進めていくとともに、そうしたウイルスが保有する特異な代謝関連遺伝子や有用遺伝子を見出し、これらの特徴付けを試みる。
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Causes of Carryover |
標的ウイルスメタゲノムの塩基配列情報の取得において、当初の想定よりも高精度に回収できたため、これにかかる研究試薬等の物品費用が抑えられ、その結果、執行残が生じた。この持ち越した分については、次年度以降において、解析する試料の数を増やしたり、1試料あたりの標的ウイルスメタゲノム配列の収量を増強するなど、これにかかる必要試薬等の追加物品の費用に充てる予定である。
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