2022 Fiscal Year Research-status Report
Eco-evolutionary feedbacks in pollination networks
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21K06330
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
瀧本 岳 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90453852)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 送粉ネットワーク / 生態-進化フィードバック / 共生 / 送粉者捕食 / 行動改変 / 非消費的効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、送粉ネットワークの構造を作る進化生態学的メカニズムの解明である。2022年度には、送粉者を食う捕食者が植物と送粉者のダイナミクスに果たす役割を解明する理論研究を行った。植物との共生ネットワークを構成する送粉者には、それを襲う捕食者の存在がよく知られている。しかし、捕食者が送粉共生系に果たす影響はよく調べられていない。そこで、植物と送粉者と送粉者捕食者からなる力学系モデルを作成し、その安定性を調べた。特に次の2点に着眼した。(1)植物と送粉者のダイナミクスは、相利共生によって両者の個体群密度に正のフィードバックが働き安定しづらい。しかし、送粉者捕食者が送粉者の個体群密度を抑えればダイナミクスは安定化するかもしれない。(2)送粉者は捕食者にねらわれると送粉行動を変える。例えば、待ち伏せ型捕食者のいる花に送粉者は近づかなくなる。捕食者による送粉者の行動改変は植物と送粉者のダイナミクスにどう影響するだろうか。解析の結果、(1)については意外なことに、捕食者がいること自体には植物と送粉者のダイナミクスを安定化する働きはなかった。むしろ、捕食者の存在は捕食-被食関係に典型的な振動をもたらし、送粉者と植物の間の正のフィードバックと相まってダイナミクスを不安定化させていた。しかし(2)に関して、捕食者が送粉者の行動改変をもたらす程度を増やすとダイナミクスは安定化した。これは、送粉者の行動改変が捕食者の個体群動態に負の密度制御をもたらす(捕食者が増えるほど自身の個体群成長率が下がる)ためだと考えられた。以上の結果から、送粉者捕食者は送粉者の行動改変を介して送粉ネットワークの安定性に重要な役割を果たしている可能性があることが分かった。この研究に加え、植物の自殖種と他殖種の分布拡大速度を比較する理論研究を行い、植物の形質進化をモデル化する枠組みを探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題では、形質進化と個体群動態の両方を組み込んだ理論モデルの開発により、送粉ネットワークの形成・維持機構を解明することを目指している。2021年度に開発した理論モデルは形質進化のみを考慮し、個体群動態を組み込めていない。2022年度に開発した送粉者捕食を考慮したモデルでは送粉者の形質の変化を考慮しているが、その変化は進化ではなく行動によるものである。また、植物の自殖種と他殖種の分布拡大を扱ったモデルでは送粉者の個体群動態を考慮していない。形質進化と個体群動態の生態-進化フィードバックを組み込んだ理論モデルの開発を進め、さらにこれを多種系に拡張する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度までに開発した理論モデルを総合し、植物2種と送粉者2種の送粉共生系の生態-進化フィードバックを記述する数理モデルを構築する。植物は2種類の花形質を持つと仮定し、一方の形質が 送粉をめぐる競争を避けるための花形質として分化し、他方の形質が植物種どうしの送粉者の共有を促進する花形質として収れんする進化動態が現れるかを解明する。この結果をふまえて、多種系のモデルを構築し、進化の結果として現れる共生ネットワークのパターンを解析する。
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Causes of Carryover |
昨年度に予定していた多種系相互作用シミュレーションモデルの大規模解析が遅れており、それを実施するために予定しているシミュレーション用コンピュータの購入を見合わせている。2023年度に購入予定にしている。
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