2021 Fiscal Year Research-status Report
温暖化によって高標高の森林は炭素の吸収源になるのか?:生産量と土壌呼吸の標高変化
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21K06331
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
高橋 耕一 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (80324226)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 炭素循環 / 土壌呼吸 / 標高傾度 / 生産量 / 細根 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は2つの個別研究について研究を行った.「個体の成長と死亡に対するバイオマスと気象の影響」と「土壌呼吸速度に対するバイオマスと気象条件の影響」についてである.2021年度の実績としては,「個体の成長と死亡に対するバイオマスと気象の影響」に関しては,標高 1600 m, 2000 m, 2300 m に設置されている調査区において,個体識別されている全個体(胸高直径 5 cm 以上)の再測定を行い,さらに新規加入個体,死亡個体の記録を行った.各標高で10数年間の間にこれまで数年間隔で再測定を行っていた.各測定期間での成長率と死亡率,そして気象データを用いて,個体間競争と気象条件の成長と死亡に対する影響を解析した.「土壌呼吸速度に対するバイオマスと気象条件の影響」については,土壌呼吸を樹木の根の呼吸と微生物の呼吸に分けて測定するために,標高1600, 2000, 2300, 2000, 2800 mに根除去区とコントロール区を設置して,土壌呼吸速度を非積雪期間に毎週,測定を行った.コントロール区の土壌呼吸速度は樹木の根の呼吸速度と微生物の呼吸速度の和であり,根除去区の土壌呼吸速度は微生物のみの呼吸速度である.そのため,コントロール区の土壌呼吸速度から根除去区の土壌呼吸速度を引いた値が根による呼吸速度となる.また,標高1600, 2000, 2300 mの調査区において,土壌呼吸速度の空間的な変異を地上部バイオマスとの関係から解析を行った.さらに,各標高で細根(直径 2mm 以下)の生産量を調べる必要が生じたため,測定を開始した.これら二つの個別研究は,全体的には概ね計画どおりに研究は進んでいると考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究は当初は以下の個別研究から構成されていた(カッコ内は実施予定年度). ①個体の成長と死亡に対するバイオマスと気象の影響(2021年度),②純一次生産量に対するバイオマスと気象条件の影響(2021年度),③ 土壌呼吸速度に対するバイオマスと気象条件の影響(2021~2023年度),④ 大型木質リター(CWD)の分解による呼吸量(2021~2023年度),⑤ 生態系純生産量(NEP)に対する温暖化の影響(2023年度) 2021年度に行ったのは,「研究実績の概要」で述べたように,①と③に関してであり,野外調査やデータ解析を進めており,全体的には概ね計画どおりに研究は進んでいると考えている.具体的には,①に関しては,標高 1600, 2000, 2300 mにおいて,成長期間の平均気温が低いほど,降水量が多いほど成長率が減少し,死亡率が増加することが分かった.③に関しては,どの標高でも土壌呼吸速度は地温と正の相関があり,また同じ地温でも根の呼吸速度は微生物の呼吸速度よりも高いことが明らかになった.また,③との関係で,細根の生産量を調べることとした.標高傾度にそってコアサンプリング法により土壌を採取し,細根量の測定を行った.さらに各標高にメッシュコアを埋設した.埋設したメッシュコアは1年後に土壌から引き上げ,その中に入っている細根量を調べることで,細根の生産量を測定する.コアサンプリング法による細根量は高い標高ほど減少する傾向はみられた.しかし,標高2800 mは礫質土壌のため,コアサンプリング法により土壌を採取できなかったため,細根量を測定することができなかった. ②については,2021年度に行う予定であったが,時間的に困難であり,できなかったため,今後行う予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
個別研究②については,2021年度にできなかったため,2022年度に行う予定である.③に関しては,2021年度と同様に,標高 1600, 2000, 2300, 2500, 2800 mの5標高において,非積雪期間に週1回の頻度で測定を引き続き,行う予定である.また,標高傾度にそって細根量の測定を行う.各標高で2021年に設置したメッシュコア(各標高10個)を引き上げ,その中に入っている細根量の測定を行う予定である.これにより,各標高での1年間の細根の生産量を測定する.細根の生産量の測定は当初は予定していなかったが,土壌呼吸速度の理解には不可欠である.しかし,細根の生産量の測定には多くの時間と労力を費やす必要がある.そのため,当初,予定していた「④大型木質リターの分解による呼吸量」に関する研究は取りやめることとした.④を取りやめてでも,細根の生産量を測定したほうが,土壌呼吸速度の標高間の差や樹木の成長の理解の助けになる.⑤に関しては,2023年度に行う予定である. また,データはまとまり次第,学会発表や論文として公表する予定である.
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Causes of Carryover |
通常,研究に使える大学からの予算はごくわずか(10万円/年)であるが,所属する学部や兼任している山岳科学研究拠点から別の予算が急についたため(総額 約105万円).科研費で購入予定であった二酸化炭素測定器など,これらの予算から購入したため,科研費の支出が余ってしまった.2022年度は土壌呼吸測定器の購入を検討している.
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Research Products
(5 results)