2022 Fiscal Year Research-status Report
ミズゴケの陽イオン交換能による湿原酸性化メカニズムの検証
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21K06339
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
中村 隆俊 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (80408658)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 陽イオン交換 / 湿原 / 酸性化 / ミズゴケ |
Outline of Annual Research Achievements |
H+の放出は、ミズゴケシュート表面のカルボキシル基(交換サイト)に保持されたH+と周辺の陽イオンが置換することで生じる。従って、H+以外の陽イオンで既に置換されたサイトは機能不全状態となる。これまで、ミズゴケの陽イオン交換能は、そうした機能不全サイトを考慮せず全サイトを対象とした最大能力で評価されてきた。 本年度は、ミズゴケの陽イオン交換能について、機能不全サイトを除いた「有効サイト」を対象とした評価を行った。また、その評価は、全調査定点の主要出現種(ミズゴケ類5種および苔類1種)の夏期シュートを対象として、乾重あたりだけでなく、現地でのミズゴケシュート密度・被度・種組成を反映させた面積あたりで実施するとともに、土壌水pH環境との対応関係について検証した。 機能不全サイトでは、いずれの種においてもCaイオンの吸着比率が最も高く、次にMgイオンの吸着比率が高いことが示された。また、Bogに分布するチャミズゴケやムラサキミズゴケでは機能不全サイト率が少なく(約40-50%)、Fenに分布するエゾコガネハイゴケやクシロミズゴケでは多くなる(約90%)傾向が示された。有効サイトを対象としたシュート乾重あたりの陽イオン交換容量は、Bog種ほど高くなる傾向が得られ、Fen種との大きな差が認められた(Bog種:約200ueq/g、Fen種:約50ueq/g)。同様に、有効サイトを対象とした面積あたりの陽イオン交換容量は、Bogプロットで約100meq/m2を示し、Fenプロット(約10meq/m2)の約10倍の値となった。加えて、乾重あたり・ミズゴケパッチあたり・面積あたりの陽イオン交換容量は、いずれも土壌水pHと強い負の相関関係(p<0.001)を示した。これらのことから、ミズゴケによる陽イオン交換と湿原の酸性化は密接な関係にあることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の予定通りミズゴケの陽イオン交換容量について夏期サンプルの調査・分析・解析を実施できたため、進捗状況については概ね順調であると判断される。しかし、春・秋サンプルについて、採取は既に完了しているものの、分析が遅れているため、今後早急に進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、未分析サンプル(春・秋シュートサンプル)の分析・解析をすすめ、ミズゴケの陽イオン交換容量について季節変化や年間値を明らかにするとともに、土壌水pH環境との対応関係についてさらに詳細な解析を行い、結果をとりまとめる。
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Causes of Carryover |
2022年度は、一部のサンプルについて分析が遅れており、分析に使用する器具・試薬代の支出が滞ったため予算に余剰が生じた。2023年度は、2022年度に実施予定であったサンプルの分析・解析を早急に行う予定である。ゆえに、次年度使用額についてはそれらの分析試薬・器具購入のための追加支出に充てることで、予算を適正に執行する予定である。
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