2023 Fiscal Year Research-status Report
弱い分散による協力行動の進化:寄生バチの性比調節を対象にした実証と理論の発展
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21K06353
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
安部 淳 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (70570076)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 性比調節 / 寄生バチ / Melittobia / 分散 / 協力行動 / 社会行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
性比調節と母親間の血縁度の関係、および、母親の分散にともなう性比調節の切替機構を明らかにするため、本年度も引き続き、神奈川県と石垣島で野外調査を行い、Melittobia australicaおよびM. sosuiを採集した。 これまでの報告では、M. sosui は南西諸島と台湾のみから記録されているが、本調査では神奈川県内でも定期的に採集されている。本研究では野外の個体群構造を解析するためにM. sosuiのマイクロサテライトDNAマーカーを開発することを予定していたため、開発したマイクロサテライトと新たにミトコンドリアのCOI領域を解析し、M. sosuiの神奈川県などのへの侵入拡大の様式を解析した。 その結果、石垣島などの南西諸島では、COI領域で複数のハプロタイプが確認されたが、神奈川では1つのみであった。その一方、開発した53遺伝子座のマイクロサテライトを用いて解析したところ、神奈川個体群でも南西諸島と同等の遺伝的多様度が確認され、神奈川個体群では平均約30%の対立遺伝子が南西諸島では確認されないプライベートアリルであることがわかった。 近年の地球温暖化の影響で様々な種で分布が北方に拡大していることが報告されているが、M. sosuiの神奈川個体群では高い割合でプライベートアリルが確認されていることから、少なく見積もっても神奈川等の本土に侵入してから数十年は経過していると考えられる。さらに、Melittobiaでは局所的集団内で配偶し、血縁個体が同一寄主に寄生することも多いため、複数世代で近親交配を繰り返す。雌が分散し非血縁の雌と一緒に産卵するときだけ、次世代で非血縁個体どうしの交配が期待される。このような極端に分集団化したともいえる個体群構造が、新たに突然変異で生じた対立遺伝子が存続して維持される確率を高めているのではないかと考察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
野外調査では順調に野外個体群の採集を行えている。本基課題に加えて国際共同研究(A)でも、長期の海外出張を行い野外調査を行っているため、採集したサンプルの解析が遅れている。今後、アルバイトを雇用するなどして挽回したい。
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Strategy for Future Research Activity |
国内の野外調査を継続すると共に、採集したサンプルを解析し、野外における母親間の血縁度などの個体群構造を明らかにする。さらに、母親の分散にともなう性比調節の切替機構を明らかにするための室内実験にも取り組んで行く。
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Causes of Carryover |
今年度は野外調査に重きを置いたため、次年度使用額が生じた。次年度はこれまでに採集したサンプルを解析する際に繰越金を使用する。
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