2022 Fiscal Year Research-status Report
幼年期の脳発達を司る神経細胞種特異的な遺伝子発現調節:コヒーシンの役割
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21K06389
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
酒井 晶子 新潟大学, 脳研究所, 特任助教 (70532745)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中戸 隆一郎 東京大学, 定量生命科学研究所, 准教授 (60583044)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | コヒーシン / 神経発達 / 抑制性ニューロン / クロマチン制御 / コルネリア・デ・ランゲ症候群 |
Outline of Annual Research Achievements |
ほ乳類の幼若脳において、経験により神経回路の可塑性が高まる臨界期は、抑制性ニューロン(特にパルブアルブミン陽性PV細胞)の発達・成熟過程で起こる。しかし、PV細胞が分化した後の発達過程における遺伝子発現制御はよく分かっていない。本研究では、クロマチン高次構造を制御し遺伝子発現を調節するコヒーシンに焦点を当て、PV細胞の発達における役割を調べている。本年度は、昨年度に構築した少数細胞のクロマチン修飾状態をゲノムワイドに調べるCUT&Tag法を用いて、マウス脳発達過程におけるヒストン修飾についてPV細胞特異的な解析を進めた。コヒーシン関連因子のPV細胞特異的コンディショナルノックアウト(cKO)マウス脳より分取したPV細胞では、野生型と比較し、発現の低下している一部の遺伝子座において、活性化に関わるヒストン修飾(H3K27AcおよびH3K4me3)が減少していた。cKOマウスではPV細胞機能に重要な遺伝子の発現異常およびPV細胞の成熟遅延が見られることと合わせると、コヒーシンはPV細胞の発達に関わる遺伝子のクロマチン修飾および正常な発現制御に必要であると考えられた。更に、大脳皮質神経細胞の約8割を占める興奮性ニューロンについても臨界期における遺伝子発現とコヒーシン関連因子の役割を解析するため、トランスクリプトーム解析およびATAC-seqによる遺伝子制御領域の解析を進めている。コヒーシン関連因子は精神遅滞を伴うCornelia de Lange(CdLS)症候群の原因遺伝子であり、本研究の結果はCdLSの神経細胞病態解明の一端となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
少数細胞を用いてクロマチン結合因子の網羅的解析を行うCUT&Tag法は、従来のChIP-seqと比較して次世代シーケンサーによるリード数が少なくて済む。しかし、本研究ではCUT&Tagの開発者より分与いただいた酵素に大腸菌DNAが混入していたため、CUT&Tagのライブラリーにおける大腸菌ゲノムの比率が高くなり、シーケンスを繰り返しリード数を増やす必要が生じた。そのため解析がやや遅れたが、cKOに特異的に変化している領域を発見するなど一定の進捗も得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、PV細胞特異的CUT&Tagのデータ解析を更に進め、臨界期特異的/コヒーシン依存的なクロマチン修飾パターンと遺伝子発現およびPV細胞機能発達との関連の理解を目指す。また、PV細胞のATAC-seqのデータを本研究得た興奮性ニューロンのものと比較し、発達期のPV細胞に特異的な遺伝子制御領域を同定するとともにその制御因子を推定する。更に、臨界期の興奮性ニューロンにおけるトランスクリプトーム解析を野生型とコヒーシン関連因子のcKOについて行う。これらを合わせて、臨界期の抑制性/興奮性ニューロン双方についての特異的な遺伝子発現パターンとその制御機構・コヒーシンの役割の理解に繋げる。
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Causes of Carryover |
本年度は主にデータ解析を行ったため物品費の使用額が当初予定を下回った。追加の次世代シークエンス解析等に掛かる金額を、次年度に繰り越す。
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Research Products
(2 results)