2021 Fiscal Year Research-status Report
Cbln4による抑制性シナプスと興奮性シナプス分化制御機構の解明
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21K06397
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松田 恵子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40383765)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒井 格 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00754631)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | シナプス / 海馬 / 抑制性シナプス / GABA受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
グルタミン酸が放出される興奮性シナプス後部においては、グルタミン酸受容体と後シナプス肥厚部構成タンパク質であるPSD95などが集積する。一方、抑制性シナプス伝達物質GABAが放出される軸索直下には、主に樹状突起上のシャフトに抑制性シナプス後部が誘導され、抑制性シナプス伝達を担うGABAA受容体が、Gephyrinなどの足場タンパク質とともに集積してくる。 同じ一本の樹状突起上に、入力線維の性質に応じて、構造的・機能的に特化したシナプス後部が、樹状突起上の特定の領域に区分されて形成される分子機構についてはいまだに未解明である。 申請者らは分泌性シナプスオーガナイザーCblnファミリーの機能を発見してきた。Cblnサブファミリーの一つであるCbln4は、興奮性シナプスのみならず、抑制性GABA作動性神経細胞(SST-Int)にも発現し、CA3錐体細胞との抑制性シナプスにも局在することを見出した。嗅内皮質から興奮性の入力を受ける貫通線維-網状分子層シナプスにおいても同じCbln4が分泌している。つまりCA3錐体細胞では、抑制性、興奮性の入力線維から、同じCbln4を受け取る。それにも関わらず、樹状突起の棘突起とシャフトに、それぞれ異種のシナプスをシナプス入力特異的に形成し成熟させることができる。本研究によって海馬CA3錐体細胞をモデルとして、限られた種類のシナプス形成因子によって、シナプスに多様性を生じさせ複雑な神経回路網を作り出す分子基盤を明らかとする。 本年度はHA tag Cbln4トランスジェニックマウスを作成し、その詳細な検討により、海馬シナプスにおいてCbln4がどのように局在するかを明らかとし、また他のシナプスオーガナイザーとの関連を探索する目的でNeuroligin1/2/3ノックアウトマウスから調整した神経細胞におけるCbln4と受容体タンパク質の機能を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初考えられてきたCA1錐体細胞ではなくCA3錐体細胞の樹状突起にCbln4 dependentな抑制性シナプス形成がみられることを見出せた。 また、これまでの研究成果から、Cbln4とその受容体の機能は、Cbln1やその受容体であるGluD2とは異なり、シナプスを形成することではなく、シナプスの機能を調節することである可能性が電気生理学的手法や電子顕微鏡観察によって示唆された。具体的には興奮性シナプスにおける、NMDA受容体効果の増強である。 簡便に、Cbln4、あるいは受容体ノックアウトにおける表現型の差異を検出する方法の立ち上げが必要であったが、通常の蛍光免疫染色でノックアウトマウスの表現型を見出すのは困難であることが分かった。このためExpansion法を用い、サンプルを大きく引き伸ばすことで、シナプス内のシナプス分子のより詳細な局在の違いを探索する系を立ち上げることができた。 もう一つの柱として、培養神経細胞を用いてのモデル系の作成が必要であった。Cbln4リコンビナントタンパク質の大量精製が可能となり、また培養海馬神経細胞において、細胞体に発現するGluDあるいはDCC受容体に注目することで、抑制性シナプス形成を観察するモデル系とすることができた。このモデル系を用いての知見から、GluD1-Cbln4によって、抑制性シナプス形成と増強が見出され、この形成と増強には、別種のシナプスオーガナイザーであるNeuroliginの存在を必要としていることを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
Cbln4の受容体であるGluD1の単独ノックアウトマウスにおいては、抑制性シナプス形成、興奮性シナプス形成ともに、電気生理学手法や電子顕微鏡観察によって表現型が見出せたが、通常の蛍光免疫染色でノックアウトマウスの表現型を見出すのは困難であることが分かった。このためExpansion法を用い、サンプルを大きく引き伸ばすことで、シナプス内のシナプス分子のより詳細な局在の違いを探索する。本方法はすでに立ち上がっている。 さらに、Cbln4の受容体として機能するタンパク質のredundancyも理由として挙げられる。これまで申請者はネトリン受容体であるDCCがCbln4と結合してシナプス形成を誘導することを見出している。そこで、DCCをVirusによってmiDNAを発現させることによりノックダウンさせる実験系を立ち上げた。機能解析は分担研究者の協力により、電気生理学的に解析を行う。 CA3錐体細胞において遠位部に興奮性入力する嗅内皮質では、Cbln4とともにCbln1もが同じ細胞で発現している。つまりCbln4は嗅内皮質-CA3錐体細胞間の興奮性シナプスにおいて、Cbln1とヘテロ複合体を形成している可能性が挙げられた。一方、Cbln1やCbln2タンパク質の局在、発現解析から、抑制性入力をするSST細胞においては、Cbln4が単独で発現することが明らかとなったことから、ホモCbln4とヘテロCbln1/Cbln4の機能の違いの重要性も示唆されてきた。 さらにCbln4とその受容体タンパク質による抑制性シナプス形成の分子基盤を明らかにする実験系が必要とされる。通常Cbln発現細胞が非常に少ない海馬培養神経細胞では、リコンビナントCbln4添加によって、とくに錐体細胞の細胞体にGluD1の集積と抑制性シナプス形成が明らかとなった。この系を用いて上記複合体や抑制性シナプス形成にかかわる受容体群を明らかとしていく。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画を見直し、 研究室既存の精製ウィルスを使用し、予定より効率的に実験が進行し、購入予定の試薬類の節約ができた。また、既存のウィルスを使用することで、計画していた遺伝子組換えマウスの大量飼育が必要となくなり、それにかかる実験補助員の雇用が必要となくなった。当初旅費として計上していた学会参加費であるが、招待講演であったため、旅費の必要性がなくなった。 これについては、次年度分として請求した助成金と合わせて使用する予定である。具体的には、電気生理学実験に必要な動物、ウィルス作成実験に必要な試薬等の消耗品の費用を拡充する予定である。
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Research Products
(2 results)