2021 Fiscal Year Research-status Report
Neural mechanisms that dynamically optimize odor representation in the Drosophila olfactory ciruit
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21K06401
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
遠藤 啓太 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (40425616)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 感覚情報処理 / カルシウムイメージング / キイロショウジョウバエ / キノコ体 / 主成分分析 / 脳内表象の最適化 / 抑制性フィードバック |
Outline of Annual Research Achievements |
キイロショウジョウバエの嗅覚二次中枢「キノコ体」では、主要介在神経細胞である約2,000個のKenyon cells (KCs) が、匂いの刺激をその種類や頻度などの統計情報に基づいてダイナミックに符号化することで、神経細胞集団全体として最適な脳内表象を生み出していると考えられる。その情報処理と神経回路機構を明らかにするために、本年度は、まず、複数の匂いを繰り返しハエに与えたときのKCsの匂い応答を、二光子励起レーザー顕微鏡を用いたカルシウムイメージングによって記録し、KCs全体の脳内表象の変化について主成分分析を行った。その結果、匂いの違いによって生じる変化と、刺激の繰り返しによって生じる変化が、それぞれ独立した主成分として表現されることを見出した。これは、刺激の繰り返しによって個々のKCの神経応答が変化しても、KCs全体の脳内表象において、異なる匂い間の相対的な関係は維持されることを示している。 このような脳内表象の変化と安定を両立させている神経回路機構の候補として、GABA作動性の抑制性神経細胞を介したグローバルな抑制性フィードバックが挙げられる。そこで、この抑制性神経細胞の働きを阻害したときのKCs全体の脳内表象の変化を解析したところ、刺激の繰り返しによって生じる変化が減少することが明らかになった。この結果から、刺激の繰り返しによって生じるKCの脳内表象の変化は、抑制性フィードバックの働きによってむしろ積極的に作り出されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、カルシウムイメージングを用いてKCs全体の脳内表象を記録し、匂い刺激を繰り返し与えることで脳内表象が変化することを定量的に捉えることに成功した。これは5つある研究計画の1番目であるが、匂い刺激の種類や頻度を様々に変化させたときの脳内表象の変化の度合いを解析するまでには至らなかったため、これは来年度以降に行う。 また、脳内表象の変化が抑制性のフィードバックの働きによって生じていることを示す結果を得ることができた。これにより研究計画の2番目が達成された。 研究計画の3番目は「KCsの細胞タイプ特異的な脳内表象の変化の解析」であるが、現在、KCsの細胞タイプ特異的に発現するGal4系統を複数用いてGCaMP6fを発現させ、細胞タイプ特異的な匂い応答の記録を試みている段階である。したがって、来年度には結果が得られると期待される。 研究計画の4番目以降は来年度以降に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、匂い刺激が繰り返し与えられると、KCs全体の脳内表象は異なる匂い間の相対的な関係を維持しながら変化することが示された。脳内表象の変化がどのような情報処理によって生じているかを推測するため、個々のKCsの匂い応答の変化を定量的に解析する。具体的には、主成分分析を個々の刺激の繰り返しについて別々に行うことで、匂いの違いを表現する主成分の負荷量が、個々のKCsにおいてどのように変化するかを解析する。 さらに、脳内表象の変化が最適化プロセスである可能性を検証するため、機械学習による線形分類器を用いて、脳内表象の変化が匂いの弁別能力にどのように影響するかを解析する。 また、脳内表象の変化はKCsに対する抑制性フィードバックの働きによって生み出されていることが示唆されたが、KCsへの抑制性フィードバックを担うGABA作動性の抑制性神経細胞は、一次嗅覚中枢(触角葉)から匂い情報をキノコ体へ伝える投射神経細胞とKCsの間のシナプスにおいて、その入力を可塑的に調節している可能性がある。そこで、投射神経細胞がシナプスをつくるKCsの個々の入力部位に注目し、神経応答の変化が局所的に起きているかを調べる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、研究計画の5番目の行動解析実験の準備を来年度以降に持ち越したからである。
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