2021 Fiscal Year Research-status Report
ホウ素アート錯体の直接光励起による有機ラジカル生成に基づく分子合成戦略
Project/Area Number |
21K06474
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
隅田 有人 金沢大学, 薬学系, 助教 (40630976)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 直接光励起 / ホウ素アート錯体 / ラジカルカップリング / アルキルラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では研究期間内に(1)(2)(3)を実施することで直接励起法の有用性を明らかにする。 (1)ホウ素アート錯体の直接励起法による高難度分子変換の開発:立体的に混んだユニット同士での結合形成は、現代有機合成においても未だ困難な課題である。連続する四置換炭素を自在に構築できれば強力な合成手法となり、新たな創薬手法、ケミカルスペース探索に繋がる。申請者が見出したホウ素アート錯体は、励起されて強力な一電子還元剤となる。(2)網羅的な有機ラジカル発生を志向したホウ素アート錯体の設計および合成:Boracene由来のアート錯体は、その調製に有機LiやMg試薬と いった強い求核剤が必要となる。そこで本手法の汎用性の向上、発生可能なラジカル種の拡大を目指して有機ボロン酸からの直接励起可能なホ ウ素アート錯体を設計する。(3)触媒的な直接励起法の開発:BoraceneあるいはPDPを用いることで、直接励起法を触媒的なプロセスへと展開する。 (1)に関して、N-ヘテロ環状カルベン触媒との協働作用によるラジカルカップリングを達成した。また(2)に関しては2,2'-(2,6-Pyridinediyl)bis[phenol]を用いることで、アルキルボロン酸から対応するアルキルホウ素アート錯体が調製でき、これが可視光照射によりラジカルを生じることを見出した。これは形式的に有機ボロン酸から有機ラジカルが生じるため、官能基許容性に優れた網羅的発生法となる。以上より、すでに研究計画の(1)(2) を達成しており、極めて順調に進捗している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
先にも述べた通り、本研究は(1)から(3)の実施計画から成っている。これらを三か年計画で実施する予定であったが、すでに(2)まで達成しており、極めて順調に進捗している。(1)に関しては、N-ヘテロ環状カルベン触媒との協働作用によるラジカル-ラジカルカップリングを開発することで、これまで困難であった化合物群へのアクセスを容易にした。加えて、ヘテロ芳香環へのラジカル付加反応、すなわちMinisci反応を達成した。これは光と酸素のみという極めて温和な条件下進行する、環境調和性に優れた手法である。また(2)に関しては2,2'-(2,6-pyridinediyl)bis[phenol]を見出したことで、非常に高い官能基許容性が実現できた。また得られた成果を国際誌(査読あり)にや学会発表するなどを行なっており、十分な成果として考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画として(3)を精力的に進める。すなわち、触媒的な直接励起法の開発であり、BoraceneあるいはPDPを用いることで、直接励起法を触媒的なプロセスへと展開する。これは、より環境調和性に優れたシステムとなるだけでなく、実現可能な分子変換の拡張にも繋がる。具体的には、boraceneを触媒としたアルキルカルボン酸からの脱炭酸を経たアルキルラジカル発生法と、PDPを触媒としたアルキルボロン酸からのアルキルラジカル発生法の開発を目指す。アルキルカルボン酸をラジカル源とする場合、boraceneを触媒として塩基存在下、カルボキシル基がホウ素に配位したアート錯体が生じる。これが励起されて一電子酸化、脱炭酸を経てアルキルラジカルが生成する。一方でPDPを触媒(開始剤)とする場合には、アルキルボロン酸と系中でアート錯体を形成し、これが励起されて一電子酸化によりアルキルラジカルが生じ、B-PDPが生成する。ここでB-PDPと新たなアルキルボロン酸とでホウ素交換が起これば、触媒サイクルが完結する。 以上の戦略指針をもとに、研究計画を推進する。
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Causes of Carryover |
研究計画の進捗が想定より大きく進展したことにより、より発展的な研究を遂行するため、新たな光反応装置の購入を計画している。同時に、それに必要な光源や付随する空冷用ファンなどを購入する財源とする。また当初想定していた試薬や精製資材、ガラス器具などの物品費が計上していた額より小さくなった。また、当該年度は対面による学会が広く開催されることを想定していたが、ほぼ全てがオンラインとなったため、学会参加費や旅費などが計上していた額を大きく下回った。一方で、今年度は対面による学会が増加することが予想される。このため、必要旅費が大幅に増えると考えられるため、学会参加費を含めて、それらに充当する。
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