2022 Fiscal Year Research-status Report
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21K06485
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Research Institution | Meiji Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
山中 正道 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (10377715)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超分子ゲル / 自己集合 / 水素結合 / 糖 / ウレア |
Outline of Annual Research Achievements |
低分子量の有機化合物の中には非共有結合を駆動力に自己集合し、物理ゲルの一種である超分子ゲルを形成するものが存在する。高い柔軟性を有し、刺激応答性に富む超分子ゲルは、次世代の機能性材料としての有用な物質である。我々は、超分子ゲルの構成単位となる低分子ゲル化剤の精密な分子設計により、酵素応答性を有する超分子ゲルの開発を検討している。標的とする酵素をラクターゼのような二糖分解酵素とすることで、生体内における超分子ゲルの崩壊は、ラクターゼ存在する小腸にて特異的に進行させることが可能となる。こうした刺激応答性を発現する超分子ゲルは、薬剤キャリアとして有効であると考え、ペプチドホルモンをはじめとする酸性条件での不安定性により経口投薬が困難な薬剤の経口製剤化を目指し研究を展開している。 我々はこれまでに、二糖であるラクトースをN-グリコシル化により誘導体化したウレア誘導体を低分子ゲル化剤として合成し、形成する超分子ゲルがラクターゼ応答性を示すことを見出した。しかし開発した超分子ゲルは、酸性条件における耐久性に乏しく、望む薬剤キャリアの条件を満たすことができなかった。そこで、酵素応答性は保持したまま酸性条件での安定性が高い超分子ゲルを形成する構成分子を分子設計した。酵素応答性を保持するためラクトースを用いことは変更せず、誘導体化の際に酸への安定性の向上を目指しN-グリコシル化からC-グリコシル化による誘導体化を計画した。ラクトースのC-グリコシル化により誘導体化されたウレア誘導体の合成とゲル化能の評価、さらには酸性条件における超分子ゲルの安定性を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行実験において開発した超分子ゲルは、酸性条件で分解が進行した。この原因を詳細に調査した結果、低分子ゲル化剤であるウレア誘導体の、ラクトースと芳香環を連結するN-グリコシド結合部位が加水分解を受け、低分子ゲル化剤として機能しない分子へと構造変化していることに起因していることが、NMRなどを用いた検討により明らかとなった。そこでN-グリコシド結合を、酸性条件でも加水分解されない構造へと変換することでこの問題は解決可能であると考え、加水分解反応の進行しにくいC-グリコシド結合を有する低分子ゲル化剤を開発することとした。 C-グリコシド結合を有するウレア誘導体の合成は、以下の方法で実施した。まず、ラクトースとアセチルアセトンを塩基性条件で反応させ、C-グリコシド結合を構築した。続いて、4-ニトロベンズアルデヒドとアルドール反応させた後、炭素-炭素不飽和結合とニトロ基を水素化により還元した。アミノ基とイソシアン酸の縮合によりウレイド基を構築し、目的とする化合物の合成を達成した。合成したウレア誘導体は、低分子ゲル化剤として機能し、水をゲル化した。イソシアン酸としてオクチルイソシアネートを用いたウレア誘導体が、最も良好なゲル化能を示し、最小ゲル化濃度は10mMであった。形成した超分子ゲルは、ラクトース部位を有するため、引き続きラクトース応答性は保持され、超分子ゲルへのラクトースの添加による、超分子ゲルの崩壊が進行した。また、期待した通りC-グリコシド結合としたことによる酸への耐久性の向上が観測され、超分子ゲルを塩酸中に存在させても崩壊すること無く長期間形状を保持できることが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の検討により、グリコシド結合をN-グリコシド結合からC-グリコシド結合とすることで、形成する超分子ゲルの酸への安定性を飛躍的に向上させることができた。2023年度は、昨年度開発したこの超分子ゲルの機能評価を行う。まず、レオメーターを用い超分子ゲルの動的粘弾性測定を行う。超分子ゲルの調製条件や、濃度などがその物性に及ぼす影響を明らかにする。続いて、超分子ゲルへの色素分子や薬剤分子の吸着を検討する。まず評価が容易な色素分子の吸着を検討し、カチオン性、アニオン性、中性いずれの構造の分子の吸着が効率的に進行するのかを明らかにする。さらに、吸着された分子の放出も評価する。色素分子または薬剤分子を吸着した超分子ゲルに、ラクターゼを作用させることによる、放出の促進を評価し、薬剤キャリアとしての可能性を探究する。 開発したC-グリコシド結合を有するウレア誘導体は、目的の機能を保有している一方で、その最小ゲル化濃度は10mMと十分に高いゲル化能を有しているとは言い難い。そこで、本超分子ゲルの機能評価と並行し、より高いゲル化能を有する化合物の開発も検討する。すでに合成したウレア誘導体は、合成過程に4-ニトロベンズアルデヒドとのアルドール反応を含む。このアルドール反応の基質を変更することで、多様な構造の化合物が合成可能であるため、一連の誘導体合成とゲル化能の評価を行い、最小ゲル化濃度が5mM未満となるウレア誘導体の開発を実現する。
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Causes of Carryover |
動的粘弾性測定に用いる特別注文の治具(約40万円)の納期が延長され2023年4月の納品となったため次年度使用額が生じた。新年度直ちに納品される予定である。
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Research Products
(19 results)